第79話 共鳴
地下酒場。
崩れた神代兵器の残骸。
その中心から、黒い光が漏れていた。
脈動。
ドクン。
ドクン。
まるで心臓。
生きているみたいだった。
◇
士郎の周囲の黒い靄が揺れる。
反応していた。
呼応するみたいに。
エレノアの表情が変わる。
赤い瞳が細くなる。
「離れて!!」
しかし。
遅かった。
黒い光が、一瞬で士郎へ流れ込む。
轟音。
空気が震えた。
◇
リゼが悲鳴を上げる。
「士郎!!」
黒い靄が膨れ上がる。
酒場全体へ圧力が広がった。
客たちが次々倒れる。
呼吸ができない。
ただ立っているだけで、本能が恐怖する。
そんな“何か”。
◇
士郎の視界が歪む。
知らない景色。
黒い空。
崩壊した都市。
山のような死体。
燃える世界。
そして。
玉座。
巨大な黒い影が座っている。
顔は見えない。
だが。
赤黒い瞳だけが見えた。
◇
『器』
声。
頭の中へ直接響く。
低い。
重い。
人間の声じゃない。
『ようやく見つけた』
士郎の黒い瞳が細くなる。
「……誰だ」
その瞬間。
景色が崩壊した。
◇
士郎が膝をつく。
酒場の床が砕ける。
黒い靄。
さらに濃い。
リゼが駆け寄ろうとする。
しかし。
エレノアが止めた。
「近づかないで」
珍しく強い声だった。
リゼが顔を青ざめる。
「え……?」
エレノアは士郎を見ていた。
赤い瞳。
そこにあったのは、恐怖ではない。
焦り。
◇
おかしい。
ここまで早いはずがない。
魔王因子が、士郎へ馴染みすぎている。
まるで。
最初から“器”として完成していたみたいに。
◇
セレナは静かに笑っていた。
「やっぱり」
グランが怒鳴る。
「おい! 何が起きてる!?」
セレナは士郎から目を離さない。
「適合が始まったのよ」
「適合……?」
「魔王因子との」
静寂。
酒場の空気が凍る。
◇
士郎の身体から黒い靄が漏れ続ける。
床。
壁。
空間。
全部が軋む。
普通じゃない。
存在そのものが変質し始めていた。
◇
その時。
士郎がゆっくり顔を上げる。
黒い瞳。
その奥が、赤く染まりかけていた。
リゼが息を呑む。
「……士郎?」
士郎は答えない。
その視線が、崩れた神代兵器を見る。
まるで。
“餌”を見るみたいに。
◇
次の瞬間。
士郎が残骸へ近づく。
そして。
黒い核を掴んだ。
エレノアが叫ぶ。
「触るな!!」
遅い。
黒い核が崩れる。
そして。
闇みたいな粒子が、士郎へ吸い込まれていく。
轟音。
酒場全体が揺れた。
◇
士郎の脳裏へ、大量の映像が流れ込む。
戦争。
虐殺。
滅びた文明。
黒い王。
そして。
世界を覆う“闇”。
人間の記憶じゃない。
もっと古い。
もっと異常な何か。
◇
その時。
士郎が笑った。
獰猛に。
「……いい」
エレノアの顔色が変わる。
最悪だった。
士郎は拒絶していない。
受け入れている。
しかも。
あまりにも自然に。
◇
セレナは静かに呟く。
「本当に壊れてるわね」
しかし。
その紫の瞳は、嬉しそうだった。
◇
その瞬間。
士郎の背後。
巨大な黒い影が、一瞬だけ現れる。
王冠。
翼。
赤黒い瞳。
酒場の客たちが震える。
誰も理解できない。
それでも。
本能だけは理解していた。
——アレは、人間じゃない。




