第78話 神代兵器
地下酒場。
静寂。
神代兵器。
巨大蜘蛛は崩れ落ちていた。
黒煙。
火花。
砕けた甲殻。
酒場は半壊。
誰も動けなかった。
普通なら軍隊級。
そんな怪物を。
黒コートの男が、素手で破壊した。
◇
士郎は興味なさそうに血を払う。
「弱いな」
グランが頭を抱える。
「感覚壊れてんだろお前……」
リゼも呆然としていた。
「神代兵器だよねアレ……?」
エレノアは静かだった。
ただ。
赤い瞳だけが険しい。
◇
その時。
巨大蜘蛛の残骸から、黒い光が漏れ始めた。
脈動。
不気味だった。
まるで。
まだ生きているみたいに。
酒場の空気が変わる。
セレナの紫の瞳が細くなる。
「やっぱり……」
エレノアの顔色が変わった。
「離れなさい!」
珍しく焦っていた。
リゼが困惑する。
「な、何!?」
◇
次の瞬間。
黒い光が噴き出した。
轟音。
巨大蜘蛛の残骸から、闇みたいなものが伸びる。
酒場全体が震えた。
客たちが悲鳴を上げる。
「なんだアレぇぇぇ!!」
「まだ動くのか!?」
それは魔力じゃない。
もっと古い。
もっと禍々しい。
神代文明の“何か”。
◇
そして。
士郎の黒い靄が反応した。
ゆっくり。
呼吸するみたいに揺れる。
まるで。
引き寄せられているように。
士郎の黒い瞳が細くなる。
「……なんだこれ」
初めてだった。
力の方から反応したのは。
◇
セレナが静かに言う。
「共鳴してる」
沈黙。
エレノアの目が鋭くなる。
「まさか……」
セレナは士郎を見る。
妖しく。
興味深そうに。
「神代兵器の動力源」
少し間を置いて。
口元を歪めた。
「“魔王の欠片”よ」
静寂。
酒場が凍る。
グランの顔が引きつる。
「は?」
リゼは意味が分からず首を傾げる。
「欠片……?」
◇
黒い光が士郎へ伸びる。
まるで。
帰る場所を探すみたいに。
エレノアが叫ぶ。
「触るな!!」
しかし。
遅かった。
黒い光が。
士郎の身体へ流れ込む。
轟音。
酒場が揺れた。
士郎の全身から黒い靄が噴き出す。
今までで最大。
空気が重い。
客たちが膝をついた。
息ができない。
◇
士郎の背後。
巨大な黒い影が浮かび上がる。
王冠。
翼。
赤黒い瞳。
観客たちが凍りついた。
「な……なんだよアレ……」
「化け物……」
セレナは静かに笑う。
確信していた。
――やはり適合する。
◇
士郎の頭へ。
声が響く。
低い。
古い。
世界の底から聞こえるみたいな声。
【継承者】
その瞬間。
士郎の黒い瞳が、わずかに赤く染まった。
エレノアの顔から、笑みが消える。
「……まずいわね」
セレナだけが笑っていた。
楽しそうに。
「始まったわ」
◇
地下都市グラディウス。
その夜。
“黒狼”の異変が、静かに始まった。




