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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第五章『奈落城編』

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第77話 深淵の魔女

地下酒場。


空気はまだ重かった。


――“魔王の心臓”。


その単語だけで、空気が変わった。


地下世界の住人たちですら。


それは禁忌に近い。


神代文明。


原初の魔王。


世界崩壊級の遺物。


軽々しく触れていい話じゃない。



それでも。


士郎だけは笑っていた。


「面白そうだ」


深淵の魔女セレナは妖しく笑う。


「あなた、本当に変わってるわね」


「そうか?」


「普通は怖がるの」


士郎は肉を食いながら答える。


「強い奴がいるなら、その方がいい」


沈黙。


リゼが頭を抱える。


「思考が戦闘狂すぎる……」



エレノアは静かにセレナを見ていた。


赤い瞳。


警戒している。


セレナも気づいていた。


「灰の魔女が、そんな顔をするなんて珍しいわね」


エレノアは笑わない。


「あなたが関わってる時点で嫌な予感しかしないのよ」


セレナは楽しそうだった。


「失礼ね」



グランが小さく聞く。


「……で、その遺跡ってどこなんだ?」


セレナは静かに答える。


「――奈落城」


その瞬間。


酒場の空気が凍った。


周囲の客たちがざわつく。


「奈落城だと……?」


「おい冗談だろ……」


「入った奴全員死んだっていう……」


地下世界でも有名だった。


神代文明時代の巨大遺跡。


無数の魔物。


古代兵器。


そして。


生きて帰った者がいない死地。



それでも。


士郎は笑った。


「いいな」


グランが頭を抱える。


「良くねぇよ……」



セレナは士郎を見る。


興味深そうに。


「怖くないの?」


士郎は即答した。


「死ぬかもしれないんだろ?」


黒い瞳が細くなる。


「最高じゃないか」


静寂。


リゼが完全に引いていた。


「この人ほんと危ない……」


エレノアだけは少し笑う。


「今さらでしょ」



その時。


セレナの視線が、士郎の周囲へ向く。


黒い靄。


ゆっくり。


まるで呼吸するみたいに揺れている。


セレナの笑みが少し深くなった。


「なるほど」


「?」


「確かに、“近い”わね」


エレノアの目が細くなる。


「……何が言いたいの?」


セレナは答えない。


ただ。


士郎を見ている。


まるで。


完成を待つ研究者みたいに。



その時。


酒場の外から悲鳴が響いた。


「う、うわぁぁぁぁ!!」


轟音。


建物崩壊音。


酒場全体が揺れる。


グランが顔をしかめる。


「今度はなんだ……?」


次の瞬間。


酒場の壁が吹き飛んだ。


爆炎。


悲鳴。


粉塵。


そして。


巨大な“何か”が現れる。


客たちが絶叫する。


「魔物だァァァ!!」


全長五メートル級。


黒い甲殻。


無数の赤い目。


蜘蛛みたいな異形。


しかし。


普通の魔物じゃない。


身体には神代文字が刻まれていた。


エレノアの顔色が変わる。


「神代兵器……!」


セレナは静かに呟く。


「追ってきたのね」


リゼが叫ぶ。


「いや先に言って!?」



巨大蜘蛛が咆哮する。


轟音。


酒場へ突撃。


机が吹き飛ぶ。


客たちが悲鳴を上げながら逃げ惑う。


それでも。


士郎だけは笑っていた。


黒い瞳。


歓喜。


「いい」


次の瞬間。


黒狼が踏み込んだ。


轟音。


床が砕ける。


酒場そのものが揺れた。


そして。


巨大蜘蛛の赤い眼が。


初めて。


“恐怖”みたいなものを宿した。

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