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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第五章『奈落城編』

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第76話 魔女の依頼

地下闘技都市グラディウス。


拳王決定戦から三日。


それでも街の熱狂は冷めていなかった。


酒場。


賭博場。


裏市場。


どこへ行っても同じ話題。


――“黒狼”。


拳王ゴルドを倒した怪物。


地下都市最強。


新たな拳王。


その名は、もはや伝説になり始めていた。



しかし。


本人はいつも通りだった。


酒場の席。


山盛り肉。


十五人前。


リゼが呆れ果てている。


「ほんとに人間……?」


「腹が減る」


地下闘技都市に来て以降。


飢餓感はさらに強くなっていた。


戦えば戦うほど。


魔王因子が活性化するほど。


身体が異常な量のエネルギーを求める。


エレノアは静かに士郎を見る。


黒い靄。


薄い。


それでも。


以前より確実に濃い。


そして。


士郎自身が、それを隠さなくなっていた。



その時。


酒場の扉が開く。


空気が変わった。


入ってきたのは、一人の女。


長い銀髪。


漆黒のローブ。


紫色の瞳。


美しい。


それでも。


本能が警鐘を鳴らす。


危険。


グランの顔が険しくなる。


「……魔術師か」


女は真っ直ぐ士郎へ近づく。


周囲の客たちもざわついていた。


「誰だあの女……」


「只者じゃねぇ……」



女は士郎の前で止まる。


そして。


静かに言った。


「西園寺士郎」


士郎は肉を食いながら答える。


「ああ」


女の紫の瞳が細くなる。


「噂通りね」


リゼが警戒する。


「誰?」


女は小さく笑った。


「セレナ」


その瞬間。


エレノアの表情が変わる。


珍しく。


本当に珍しく。


笑みが消えた。



「“深淵の魔女”……」


グランが乾いた声を漏らす。


周囲の空気が凍る。


地下世界で知らぬ者はいない。


禁術。


古代魔術。


死霊術。


あらゆる禁忌へ手を出した魔女。


それがセレナ。


誰も逆らわない。


いや。


逆らえない。



セレナは士郎を見る。


興味深そうに。


「あなた、面白いわね」


士郎は興味なさそうだった。


「そうか」


「普通はもっと警戒するのだけれど」


少し間が空く。


そして。


士郎は聞いた。


「お前、強いのか?」


沈黙。


リゼが頭を抱える。


「まずそこなの!?」


グランも乾いた笑いを漏らす。


「もう病気だろ……」



セレナは妖しく笑った。


「ええ」


その瞬間。


酒場の温度が下がる。


魔力。


濃密。


空気そのものが重くなる。


客たちの顔が青ざめた。


椅子から崩れ落ちる者までいる。


それでも。


士郎だけは笑っていた。


「いい」


エレノアがため息を吐く。


「ほんと戦闘狂ね」



セレナは静かに言った。


「依頼があるの」


士郎は肉を食いながら聞く。


「内容は?」


紫の瞳が細くなる。


「古代遺跡の攻略」


その瞬間。


エレノアの赤い瞳が鋭くなった。


古代遺跡。


神代文明。


原初の魔王。


全部繋がっている。



セレナは続ける。


「そこには、“魔王の心臓”がある」


静寂。


酒場の空気が変わる。


エレノアの笑みが消えた。


リゼは意味が分からず首を傾げる。


グランの顔も険しくなる。


ただ一人。


士郎だけが笑っていた。


黒い瞳。


獰猛に。


「面白そうだ」


深淵の魔女は、妖しく笑った。

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