第75話 拳王
中央闘技場。
崩壊寸前。
壁は砕け。
地面は陥没し。
観客席すら半壊していた。
それでも。
誰も逃げない。
目を離せなかった。
地下都市最強。
拳王ゴルド。
そして。
黒狼、西園寺士郎。
二人の戦いは、もはや伝説になっていた。
◇
ゴルドが笑う。
血まみれで。
全身傷だらけ。
それでも。
心の底から楽しそうだった。
「最高だァァァ!!」
踏み込み。
轟音。
拳。
超重量。
士郎の顔面へ直撃する。
普通なら頭が吹き飛ぶ。
それでも。
士郎は耐えた。
口から血を吐きながら。
笑っていた。
◇
士郎の拳が返る。
喉。
肋骨。
心臓。
全部急所。
完全な殺しの技術。
それでも。
ゴルドも止まらない。
肘。
膝。
頭突き。
互いに回避しない。
いや。
回避できる。
その上で。
踏み込んでいる。
殺し合いのために。
◇
観客たちは震えていた。
「なんで立ってるんだ……」
「もう人間じゃねぇ……」
「化け物だ……」
誰も理解できない。
どうして戦い続けられるのか。
◇
その時。
ゴルドの拳が士郎の脇腹へめり込む。
骨が砕ける音。
それでも。
士郎は止まらない。
その瞬間を利用して踏み込む。
完全な実戦思考。
喉への拳。
ゴルドの首が揺れる。
血飛沫。
それでも。
ゴルドは笑っていた。
「いい!!」
◇
黒い靄が溢れる。
士郎の周囲。
まるで生きているみたいに。
観客席がざわめく。
「またアレが……!」
「なんなんだ黒狼……!」
エレノアは静かだった。
赤い瞳で士郎を見る。
魔王因子。
限界を超え始めている。
◇
その時。
ゴルドが笑いながら言う。
「お前、この街をどうする?」
士郎は拳を構える。
「別に興味ない」
「ハハッ!!」
ゴルドは嬉しそうだった。
「最高だなァ!!」
地下都市。
権力。
金。
支配。
そんなものに興味はない。
ただ。
強敵と戦うためだけに立っている。
――それが西園寺士郎だった。
◇
次の瞬間。
両者が同時に踏み込む。
轟音。
地面爆砕。
拳。
真正面衝突。
衝撃波で中央闘技場そのものが崩壊を始める。
観客たちが悲鳴を上げた。
◇
それでも。
二人は止まらない。
ゴルドの拳。
士郎の拳。
互いに血まみれ。
それでも笑っていた。
完全に壊れている。
◇
その時。
士郎の黒い瞳が細くなる。
全部見えた。
ゴルドの呼吸。
重心。
筋肉。
次の動き。
魔王因子によって強化された超感覚。
その瞬間。
士郎が踏み込む。
最短。
最速。
拳。
ドゴォォォォォォォン!!!
ゴルドの胸へ直撃。
轟音。
巨体が吹き飛ぶ。
闘技場中央を砕きながら転がる。
静寂。
◇
誰も動けなかった。
拳王ゴルド。
地下都市絶対王者。
その男が。
初めて倒れた。
◇
ゴルドは仰向けのまま笑う。
血を吐きながら。
「……負けた」
静寂。
そして。
観客席が爆発した。
「うおおおおおおお!!!」
「黒狼ォォォォ!!」
「新しい王だァァァァ!!」
熱狂。
恐怖。
歓喜。
全部混ざっていた。
◇
ゴルドはゆっくり立ち上がる。
そして。
士郎を見る。
獰猛に笑った。
「持ってけ」
観客席が静まる。
ゴルドは叫んだ。
「今日からテメェが拳王だ!!」
歓声爆発。
地下都市全域が揺れる。
黒狼。
西園寺士郎。
その名が。
地下世界最強として刻まれた瞬間だった。
◇
しかし。
士郎は興味なさそうだった。
「いらん」
静寂。
そして。
ゴルドが爆笑する。
「ハハハハハッ!!」
観客たちも呆然としていた。
地下都市の頂点。
それを。
この男は本気でどうでもよさそうにしている。
◇
エレノアが妖艶に笑う。
「ほんと、王に向いてるわね」
士郎は眉をひそめた。
「気持ち悪いこと言うな」
リゼが吹き出す。
グランも乾いた笑いを漏らした。
そして。
崩壊した中央闘技場の中心で。
新たな拳王は、面倒そうに立っていた。
第四章
『地下闘技都市編』 完。




