第74話 黒狼と拳王
中央闘技場。
熱狂。
歓声。
悲鳴。
全部が混ざっていた。
地下都市最強。
拳王ゴルド。
そして。
黒狼、西園寺士郎。
二人の激突は、もはや試合ではない。
――災害だった。
◇
ゴルドが笑う。
「最高だ黒狼!!」
次の瞬間。
踏み込み。
轟音。
巨大な拳が士郎へ叩き込まれる。
空気が裂ける。
それでも。
士郎は見切る。
最小動作。
回避。
同時に。
喉への拳。
ゴルドは首をずらして回避。
膝蹴り。
士郎は肘で逸らす。
衝撃波。
地面爆砕。
観客席最前列が吹き飛んだ。
◇
「なんだよこの戦い!!」
「闘技場が壊れる!!」
実況すら逃げ始めていた。
普通の人間では近づくだけで死ぬ。
そんな領域。
◇
それでも。
士郎は笑っていた。
最高だった。
ゴルドの拳。
重い。
速い。
技術もある。
しかも。
今までの相手みたいに脆くない。
――だから楽しい。
◇
ゴルドも笑う。
「避けるだけじゃねぇな!!」
士郎は答えない。
次の瞬間。
踏み込み。
超近距離。
肘打ち。
拳。
関節破壊。
人体破壊術。
全部が急所。
殺し屋として完成された技術。
それでも。
ゴルドは耐える。
筋肉だけじゃない。
骨。
呼吸。
重心。
全てを極めている。
まるで“武”そのものだった。
◇
ゴルドの拳が士郎の肩を掠める。
骨が軋む。
それでも。
士郎は止まらない。
むしろ。
その瞬間を利用して踏み込む。
完全な実戦思考。
喉への貫手。
ゴルドが辛うじて防ぐ。
「ハハッ!!」
ゴルドは嬉しそうだった。
「そう来ねぇとなァ!!」
◇
観客席では、誰も息をしていなかった。
グランが乾いた声を漏らす。
「……イカれてやがる」
リゼも顔が青い。
「なんで笑ってるのあの二人……」
エレノアだけは静かだった。
赤い瞳で士郎を見る。
黒い靄。
さらに濃い。
そして。
士郎自身が、それを抑えなくなっている。
◇
その時。
ゴルドが咆哮した。
闘気爆発。
轟音。
闘技場全体へ圧力が走る。
観客席の一部が崩壊。
実況席が吹き飛ぶ。
「拳王の全力だァァァ!!」
ゴルドの筋肉が膨張する。
まるで巨大な鬼。
地下都市最強。
その本気。
◇
士郎は笑った。
黒い靄が漏れ出す。
歓喜していた。
身体が軽い。
視界が鮮明。
全部見える。
ゴルドの筋肉。
重心。
呼吸。
次の動き。
全部。
魔王因子。
その力がさらに士郎を押し上げていた。
◇
ゴルドが踏み込む。
超重量拳。
真正面。
――避けない。
士郎も拳を合わせた。
激突。
轟音。
衝撃波で闘技場外壁が崩壊した。
観客席から悲鳴。
そして。
静寂。
ゴルドの目が見開かれる。
士郎の拳が。
ゴルドの拳を押し返していた。
◇
「……ハッ」
ゴルドが笑う。
震えるほど嬉しそうに。
「お前、人間じゃねぇな」
士郎も笑った。
「ああ、そうかもな」
その瞬間。
士郎の背後。
巨大な黒い影が、一瞬だけ現れた。
王冠。
翼。
赤黒い瞳。
観客席が凍る。
「な、なんだアレ……」
エレノアの赤い瞳が細くなる。
――出始めた。
魔王。
◇
それでも。
士郎本人は気づいていない。
ただ。
目の前の強敵しか見えていなかった。
ゴルドが笑う。
「もっと来い黒狼!!」
士郎も笑う。
「ああ」
次の瞬間。
地下都市最強同士の戦いは、ついに限界を超え始めた。




