第73話 地下都市最強
地下闘技都市グラディウス。
中央闘技場。
地下最大。
数十万人規模。
普段は“拳王”ゴルド専用の舞台。
そこへ。
今夜、地下都市中の人間が集まっていた。
観客席は完全満員。
熱気。
歓声。
興奮。
そして。
恐怖。
◇
「本当にやるのか……」
「拳王と黒狼……」
「どっちが勝つんだ……?」
誰も予想できない。
地下都市最強。
百戦無敗の王。
拳王ゴルド。
対するは。
突如現れた黒コートの怪物。
黒狼。
地下都市の空気そのものが震えていた。
◇
闘技場入口。
士郎は静かに立っている。
黒いコート。
血の跡。
黒い靄。
エレノアが隣で笑う。
「完全に悪役ね」
「今さらだろ」
リゼは顔をしかめる。
「なんで嬉しそうなの……」
実際。
士郎は笑っていた。
久しぶりだった。
ここまで強い相手。
ここまで死を感じる相手。
身体が熱い。
◇
その時。
闘技場全体が揺れた。
重い足音。
ゴルドが現れる。
歓声爆発。
「拳王ォォォォ!!」
「ゴルド!!」
「最強!!」
地下都市の絶対王者。
その登場だけで観客が熱狂する。
ゴルドは笑いながら闘技場へ降りた。
「待たせたな」
士郎も笑う。
「ああ」
◇
実況が叫ぶ。
「始まるゥゥゥゥゥ!!」
「地下都市最強決定戦!!」
「拳王ゴルドVS黒狼ォォォォ!!」
歓声。
絶叫。
地鳴りみたいな熱狂。
それでも。
ゴルドと士郎だけは静かだった。
互いしか見ていない。
◇
ゴルドが口を開く。
「お前、面白ぇな」
士郎は答える。
「お前もだ」
ゴルドは笑った。
「この街じゃ、誰も俺を殺せなかった」
その目が獰猛に歪む。
「だから退屈だった」
士郎の口元も歪む。
完全に同類。
壊れた戦闘狂。
◇
次の瞬間。
両者が同時に踏み込んだ。
轟音。
地面爆砕。
観客席が揺れる。
拳。
拳。
真正面衝突。
衝撃波で闘技場外壁が砕ける。
観客たちが悲鳴を上げた。
「なんだこれ!?」
「人間じゃねぇ!!」
◇
ゴルドの拳が士郎を掠める。
頬が裂ける。
それでも。
士郎は避けながら踏み込んでいた。
完全に見えている。
その上で。
攻撃を捨てて距離を潰している。
肘打ち。
膝。
喉打ち。
全部急所。
それでも。
ゴルドは止まらない。
「いい!!」
完全に笑っていた。
◇
次の瞬間。
ゴルドの膝蹴り。
超重量。
士郎の身体が吹き飛ぶ。
闘技場の壁へ激突。
石壁崩壊。
観客席がどよめく。
「黒狼が押されてる!?」
グランの顔が険しくなる。
「いや……」
その目が細くなる。
「まだ笑ってる」
◇
瓦礫の中。
士郎は立ち上がる。
血を吐く。
それでも。
黒い瞳は歓喜していた。
強い。
圧倒的。
殺されるかもしれない。
その感覚が。
たまらなく心地良かった。
◇
その時。
ゴルドが踏み込む。
速い。
巨体とは思えない。
拳。
それでも。
士郎は見切る。
最小動作。
回避。
同時に。
拳を叩き込む。
ドゴォォォォン!!!
ゴルドの巨体が――初めて揺れた。
静寂。
観客席が凍る。
「……今」
「拳王が……?」
ゴルド自身も笑っていた。
心の底から嬉しそうに。
「最高だ黒狼」
その瞬間。
地下都市最強同士の殺し合いが、さらに加速した。




