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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第四章『地下闘技都市編』

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第72話 拳王

地下酒場。


静寂。


誰も動けなかった。


酒場入口に立つ巨大な男。


三メートル近い巨体。


全身傷だらけ。


圧倒的威圧感。


存在するだけで空気が重い。



グランの顔色が悪い。


「……嘘だろ」


リゼが小さく聞く。


「そんなにヤバい人なの?」


グランは乾いた声で答えた。


「地下都市最強」


沈黙。


「この街の王だ」



巨大な男は笑う。


獰猛に。


「初めましてだな、黒コート」


士郎は静かに見上げる。


「お前が王か?」


周囲の空気が凍る。


普通なら。


絶対言わない。


それでも。


巨大な男は嬉しそうだった。


「ああ」


その目が細くなる。


「“拳王”ゴルドだ」



地下都市グラディウス。


最強。


絶対王者。


百戦無敗。


地下闘技場最終到達者。


そして。


黒蛇会すら逆らえない怪物。


それが拳王ゴルド。



ゴルドは足元で倒れているレオンを見る。


「お前が負けるとはな」


レオンは血を吐きながら笑った。


「化け物ですよ、コイツは」


ゴルドは笑う。


「知ってる」


そして。


士郎を見る。


その瞬間。


空気が変わった。


圧力。


まるで巨大な猛獣。


リゼの顔が青ざめる。


「……重い」


エレノアの赤い瞳が細くなる。


「強いわね」


グランが小さく呟く。


「今までの連中とは別格だ……」



それでも。


士郎は笑っていた。


「いいな」


ゴルドも笑う。


完全に戦闘狂同士だった。


「気に入ったぜ黒狼」


――黒狼。


その異名を、拳王が口にした瞬間。


酒場がざわつく。


地下都市の王が認めた。


それだけで意味が違う。



ゴルドはゆっくり近づく。


床が軋む。


巨体。


なのに。


異常なまでに隙がない。


士郎の黒い瞳が細くなる。


見えていた。


重心。


呼吸。


筋肉。


全部完成されている。


ただの怪力型じゃない。


武術。


実戦。


殺し。


全部極まっている。



ゴルドが笑う。


「分かるか?」


士郎も笑った。


「ああ」


強い。


今までで一番。


――殺されるかもしれない。


その感覚に。


士郎の口元が歪む。



次の瞬間。


ゴルドの拳が振るわれた。


轟音。


酒場の空気が爆ぜる。


しかし。


士郎は最小動作で回避。


同時に。


肘打ち。


――入った。


それでも。


ゴルドは微動だにしない。


士郎の目が細くなる。


硬い。


筋肉じゃない。


鍛え方そのものが異常。



ゴルドは笑った。


「軽いな」


次の瞬間。


膝蹴り。


超重量。


士郎の身体が吹き飛ぶ。


酒場の壁を突き破る。


観客たちが凍る。


「黒狼が……!」



瓦礫の中。


士郎はゆっくり立ち上がる。


血を吐く。


それでも。


笑っていた。


最高だった。


強い。


圧倒的。


だからこそ。


楽しい。



ゴルドが酒場から出てくる。


夜の地下都市。


観客たちがどんどん集まり始める。


誰もが察していた。


始まる。


地下都市最強同士の戦いが。


ゴルドは首を鳴らした。


「場所変えるぞ」


士郎は笑う。


「ああ」


その瞬間。


地下都市グラディウス全域へ。


“拳王vs黒狼”の噂が駆け巡り始めた。

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