第8話 赤蛇壊滅
東鉱山。
岩山を削って作られた巨大鉱脈地帯。
本来なら多くの鉱夫たちで賑わう場所だった。
だが今は違う。
悲鳴。
怒号。
血。
武装した男たちが好き勝手に暴れていた。
“赤蛇”。
この一帯最大級の盗賊団。
鉱夫たちは地面へ跪かされ、逆らった者はその場で殺されている。
「ひ、ひぃ……」
「助けてくれ……」
盗賊たちは笑っていた。
「黙れ」
「お前らは金だけ掘ってりゃいいんだよ」
その時だった。
入口付近で、何かが倒れる音。
ドサッ。
盗賊たちが振り向く。
仲間の一人が、首を折られて転がっていた。
「……は?」
静寂。
そして。
黒いコートの男が、ゆっくり歩いてくる。
西園寺士郎。
盗賊の一人が怒鳴る。
「誰だてめぇ!!」
士郎は周囲を見渡す。
人数。
武装。
配置。
弱い。
そう判断した。
「お前らが赤蛇か」
盗賊たちが笑う。
「だったらなんだ?」
「一人で来たのかよ!」
「頭沸いてんのか!」
士郎は静かに答える。
「確認だ」
「……?」
「全員殺して問題ないな」
空気が止まった。
盗賊たちの笑みが消える。
次の瞬間。
士郎が消えた。
「――ッ!?」
最前列の盗賊の顔面が潰れる。
そのまま横の男の喉を肘で破壊。
振り向きざまに蹴り。
頭蓋が砕ける。
一瞬だった。
盗賊たちが悲鳴を上げる。
「敵襲!!」
「殺せぇぇ!!」
一斉に襲いかかる。
剣。
斧。
弓。
だが。
当たらない。
士郎は最小動作で回避しながら、人間を壊していく。
拳。
膝。
肘。
人体破壊に特化した技術。
急所だけを、正確に潰す。
盗賊たちは理解できなかった。
なぜ武器を使わない?
なぜ素手でこんなに強い?
士郎は止まらない。
男の腕を折る。
その腕を掴み、別の男へ叩きつける。
首を掴む。
捻る。
骨が砕ける。
血飛沫。
絶叫。
鉱山は地獄になった。
鉱夫たちは震えながら、その光景を見ていた。
助けに来た?
違う。
あれは。
もっと恐ろしい何かだ。
◇
鉱山奥。
赤蛇団長バルガスは、部下の報告を聞いて顔をしかめていた。
大男。
全身傷だらけ。
巨大な戦斧を持つ、元傭兵。
「……一人?」
部下が震えながら頷く。
「そ、そうです!」
「仲間は」
「いません!!」
バルガスは鼻で笑った。
「馬鹿か」
だが。
次の瞬間。
奥から悲鳴が響く。
そして。
何かが転がってきた。
部下の頭だった。
空気が凍る。
黒いコートの男が現れる。
返り血を浴びながら。
静かに。
バルガスの目が細くなる。
「てめぇか」
士郎は答えない。
ただバルガスを見る。
強い。
今までの雑魚とは違う。
バルガスは戦斧を肩へ担ぐ。
「面白ぇ」
殺気。
空気が重くなる。
周囲の盗賊たちが後退った。
本能で理解している。
ここから先は、自分たちが入れる領域じゃない。
バルガスが突進した。
轟音。
巨大な戦斧が振り下ろされる。
岩盤が砕けた。
だが。
当たらない。
士郎は半歩だけ動いて避けていた。
バルガスの目が見開かれる。
「速ぇ――」
士郎の拳が腹へめり込む。
ドゴォォォン!!
巨体が吹き飛ぶ。
岩壁へ激突。
鉱山が揺れる。
盗賊たちが絶句する。
「団長が……!」
バルガスは血を吐きながら立ち上がる。
笑っていた。
「はは……!」
士郎の目が細くなる。
「まだ立つか」
「当然だろうが!!」
バルガスが咆哮する。
魔力が膨れ上がる。
筋肉がさらに膨張した。
リゼたちから聞いていた。
この世界の“強化魔法”。
バルガスが地面を砕きながら突っ込む。
今度は速い。
重い。
戦斧が士郎の肩を掠めた。
血が飛ぶ。
だが。
士郎は笑った。
ほんの少し。
「いいな」
その瞬間。
空気が変わる。
バルガスの背筋が寒くなる。
危険。
本能が叫ぶ。
だが遅い。
士郎が踏み込む。
肘打ち。
顎粉砕。
膝蹴り。
肋骨陥没。
最後。
拳。
轟音。
バルガスの巨体が岩壁へめり込んだ。
動かない。
沈黙。
赤蛇団、壊滅。
盗賊たちは武器を捨て、逃げ始める。
「に、逃げろ!!」
「化け物だぁぁ!!」
士郎は追わない。
興味がなかった。
鉱夫たちは震えながら士郎を見る。
感謝より先に、恐怖が来る。
士郎は血を払った。
その時。
背後から小さな声。
「……ありがとう」
少女だった。
鉱夫の娘。
怯えながら、それでも頭を下げている。
士郎は少し黙った。
そして。
「礼はいらん」
そう言って歩き出す。
その背中を見ながら、鉱夫たちは呟く。
「黒狼……」
その異名は。
もう街だけでは収まらなくなり始めていた。




