第68話 地下都市の王
地下奴隷闘技場。
静寂。
さっきまで歓声を上げていた観客たちは、もう誰も笑っていなかった。
床には死体。
血。
砕けた武器。
そして中央には。
黒コートの男。
西園寺士郎。
まるで。
最初から人を殺すためだけに生まれてきたみたいな立ち姿だった。
◇
上層席。
ドグマの額から汗が流れる。
理解できなかった。
護衛は精鋭。
奴隷闘士も強い。
この闘技場では絶対だった。
なのに。
数分で壊滅した。
しかも相手は一人。
ドグマが怒鳴る。
「な、何してる!! 殺せ!!」
しかし。
護衛たちは動けない。
怖かった。
士郎の目が。
まるで。
次に誰を殺すか選んでいる肉食獣みたいだった。
◇
士郎は静かに歩く。
上層席へ向かって。
ゆっくり。
それでも。
誰も止められない。
観客たちも道を空けていく。
リゼが小さく呟く。
「……完全に魔王」
グランが乾いた笑いを漏らす。
「今さらだろ」
エレノアは楽しそうだった。
「あら、まだ人間っぽいわよ?」
「基準がおかしい!!」
◇
その時。
ドグマの隣にいた大男が前へ出る。
全身重装甲。
巨大戦斧。
顔中傷だらけ。
地下都市最上位クラスの用心棒。
“虐殺鬼”ガルド。
観客席がざわつく。
「ガルドだ……!」
「ドグマの最終護衛……!」
百人以上を処刑してきた怪物。
それでも。
ガルドは士郎を見るなり笑った。
「なるほど」
戦士の目だった。
「テメェ、本当に強ぇな」
士郎も少し笑う。
「ああ」
◇
次の瞬間。
ガルドが突進した。
轟音。
重装甲とは思えない速度。
巨大戦斧が士郎へ振り下ろされる。
しかし。
士郎は最小動作で回避。
同時に。
肘打ち。
ガルドの脇腹へ直撃。
重装甲が陥没する。
ガルドが笑う。
「いい!!」
完全に戦闘狂だった。
◇
次の瞬間。
戦斧連撃。
横薙ぎ。
振り下ろし。
踏み潰し。
闘技場そのものが壊れ始める。
それでも。
士郎は全部捌く。
受け流し。
急所潰し。
関節破壊。
完全に“殺し”として完成された動き。
ガルドの顔から笑みが消える。
「……なんだその技術」
士郎は答えない。
拳。
膝。
喉打ち。
全部が致命傷。
しかも。
人間離れした速度と威力。
――だから止められない。
◇
観客席も静まり返っていた。
誰かが呟く。
「怪物だ……」
もう誰も試合だと思っていない。
一方的な処刑。
それに近かった。
◇
その時。
ガルドが咆哮する。
闘気爆発。
筋肉膨張。
実況が震える。
「ガ、ガルドの狂化だァ!!」
赤黒い闘気。
巨大化する肉体。
地下都市で恐れられる理由。
それでも。
士郎は笑った。
「悪くない」
次の瞬間。
両者が激突する。
轟音。
衝撃波で観客席が吹き飛ぶ。
そして。
静寂。
ガルドの目が見開かれる。
士郎の拳が。
重装甲ごと胸を貫いていた。
血飛沫。
ガルドは数秒呆然とし。
そして。
笑った。
「……最高だ」
崩れ落ちる。
地下都市最上位護衛。
“虐殺鬼”ガルド。
死亡。
◇
静寂。
そして。
士郎が再びドグマを見る。
黒い瞳。
冷たい。
ドグマの顔が青ざめる。
初めて理解した。
この男。
金でも。
権力でも。
脅しでも止まらない。
――純粋な“死”だ。
士郎は静かに言う。
「逃げるか?」
その瞬間。
ドグマが悲鳴を上げながら走り出した。




