第64話 殺しの技術
地下闘技場。
静寂。
“紫電”カインの奥義。
超高速剣舞。
誰も見えなかった。
観客たちは確信していた。
終わった、と。
――それでも。
士郎は立っていた。
血まみれで。
笑いながら。
◇
カインの顔から笑みが消える。
理解できなかった。
今の斬撃は全部入った。
致命傷のはず。
なのに。
この男は倒れない。
むしろ。
嬉しそうだった。
士郎はゆっくり振り向く。
「いい」
その瞬間。
拳。
ドゴォォォォン!!!
カインは反射的に剣で防御する。
しかし。
重い。
凄まじい衝撃。
カインの身体が吹き飛ぶ。
地面を滑り、壁へ激突。
観客席がどよめく。
「防いだのに……!」
「なんだあの威力!!」
◇
カインは立ち上がる。
腕が痺れていた。
それでも。
本当に恐ろしいのは威力ではない。
士郎の動き。
無駄がない。
最短。
最速。
全部が“殺し”として完成されている。
紫の瞳が細くなる。
「……お前」
士郎は静かに歩く。
獣のような圧力。
しかし。
動きそのものは異様に洗練されていた。
◇
次の瞬間。
カインが再び消える。
超高速斬撃。
しかし。
士郎の腕が動く。
最小動作。
剣筋を逸らす。
そのまま踏み込み。
肘打ち。
関節破壊。
喉への貫手。
全部が一瞬だった。
カインが無理やり後退する。
紫の瞳に驚愕が走る。
「なんだその技術……!」
士郎は答えない。
拳法。
軍隊格闘術。
暗殺術。
人体破壊術。
あらゆる殺人技術が混ざっている。
しかも。
それを超人的身体能力で使っている。
――だから。
手がつけられない。
◇
観客たちも気づき始めていた。
「なんだアイツ……」
「ただ力が強いんじゃねぇ……」
「動きがおかしい……!」
実況ですら言葉を失っていた。
試合ではない。
――処刑術だった。
◇
カインが踏み込む。
二刀流連撃。
超高速。
それでも。
士郎は全部捌く。
受け流し。
急所潰し。
体勢崩し。
カインの動きが、徐々に乱されていく。
顔から余裕が消えた。
「読まれてる……!」
士郎は静かだった。
殺し屋。
その経験値が違う。
何百何千という死線。
その中で磨き続けた技術。
だから。
純粋な戦闘技術では、士郎の方が上だった。
◇
その時。
カインの剣が士郎の脇腹を裂く。
血飛沫。
しかし。
士郎は止まらない。
むしろ。
踏み込む。
カインの目が見開かれる。
「……!」
普通なら下がる。
しかし。
この男は違う。
傷を利用して距離を潰す。
完全に実戦の動き。
次の瞬間。
士郎の拳がカインの腹へ突き刺さる。
轟音。
カインが血を吐く。
身体が浮く。
それでも。
空中で無理やり体勢を変え、斬撃を放つ。
士郎の頬が裂ける。
二人とも笑っていた。
完全に戦闘狂同士だった。
リゼが頭を抱える。
「なんで嬉しそうなのこの人たち……」
エレノアは楽しそうに笑う。
「分かり合ってるのよ」
「嫌すぎる理解!!」
◇
その時。
カインが後退る。
呼吸が荒い。
腕も震えている。
しかし。
紫の瞳だけは死んでいなかった。
むしろ。
興奮している。
「いいな、お前」
士郎も笑う。
「ああ」
観客たちは理解し始めていた。
昨日の新人。
そんなレベルじゃない。
本物だ。
黒コートの怪物。
地下闘技都市を壊しかねない存在。
◇
次の瞬間。
カインが両剣を構える。
空気が変わる。
実況が震える声を上げた。
「ま、まさか……!」
観客席もざわつく。
「出すのか……!」
「まだ奥があったのかよ!」
カインは静かに笑う。
「次で終わらせる」
士郎は獰猛に笑った。
「来い」
その瞬間。
闘技場の空気が、殺気で凍りついた。




