第63話 見えない斬撃
地下闘技場。
観客席がざわつく。
誰も見えなかった。
“紫電”カインの動きが。
ただ。
次の瞬間には。
士郎の頬から血が飛んでいた。
実況が絶叫する。
「速いィィィ!! 速すぎるゥゥゥ!!」
歓声。
熱狂。
観客たちは沸き上がる。
「決まった!!」
「やっぱカインだ!!」
「新人終わりだァ!!」
◇
――それでも。
士郎は笑っていた。
頬の血を指で拭う。
「いいな」
カインの目が細くなる。
普通なら。
今の一撃で動揺する。
しかし。
この男は違う。
むしろ。
嬉しそうだった。
◇
次の瞬間。
カインが再び消える。
超高速移動。
残像。
斬撃。
士郎の肩。
脇腹。
太腿。
次々に血が飛ぶ。
観客が熱狂する。
「見えねぇ!!」
「完全に押してる!!」
リゼが顔をしかめる。
「士郎、避けてない……?」
エレノアは静かに答える。
「違うわ」
赤い瞳が細くなる。
「見てる」
◇
その瞬間。
士郎の腕が動いた。
ガシッ。
静寂。
士郎の手が。
カインの剣を掴んでいた。
観客席が凍る。
実況すら止まった。
カインの目が見開かれる。
「……は?」
士郎は笑う。
「捕まえた」
次の瞬間。
拳。
ドゴォォォォン!!!
カインの身体が吹き飛ぶ。
闘技場を転がり、壁へ激突。
石壁が砕ける。
観客席がどよめいた。
「掴んだ……?」
「見えてたのか!?」
◇
カインは血を吐きながら立ち上がる。
それでも。
笑っていた。
獰猛に。
「なるほど……」
紫の瞳が鋭くなる。
「化け物か」
士郎は静かだった。
「お前も悪くない」
◇
次の瞬間。
カインの空気が変わる。
殺気。
鋭い。
観客席ですら息苦しくなる。
実況が震える声で叫ぶ。
「出るのか……!」
カインが二本の細剣を交差させる。
紫電流。
奥義構え。
観客たちが総立ちになる。
「終わりだ!!」
「あれ喰らって立ってた奴いねぇぞ!!」
リゼが顔を曇らせる。
「まずいの?」
エレノアは笑った。
「少しね」
――それでも。
士郎は笑っていた。
黒い瞳。
獰猛に。
「来い」
◇
次の瞬間。
カインが消えた。
今までよりさらに速い。
紫の閃光。
連続斬撃。
空間そのものを裂く超高速剣舞。
観客にはもう見えない。
ただ。
闘技場に斬撃跡だけが増えていく。
そして。
静寂。
カインが士郎の背後へ現れる。
観客たちが息を呑む。
決まった。
誰もがそう思った。
しかし。
士郎は立っていた。
血まみれで。
そして。
笑っていた。
カインの顔から、初めて笑みが消える。
その瞬間。
士郎の拳が動いた。




