第60話 巨鬼
地下闘技場。
歓声が揺れていた。
「バルガン!!」
「殺せぇぇぇ!!」
「潰せ!!」
観客たちは総立ちだった。
闘技場中央。
巨鬼化したバルガン。
筋肉がさらに膨張し、全身へ赤黒い闘気が走っている。
もはや人間サイズではない。
怪物。
そのものだった。
◇
実況が絶叫する。
「これがァァァ!! 地下闘技都市最強!! “巨人殺し”バルガンの本気だァァァ!!」
観客が熱狂する。
今までこの姿を見て、生き残った相手はいない。
全員。
潰された。
――それでも。
士郎だけは笑っていた。
「いい」
◇
次の瞬間。
バルガンが突進する。
轟音。
闘技場の地面が砕ける。
速い。
巨体とは思えない速度。
そして。
拳。
空気そのものが爆ぜる超重量打撃。
しかし。
士郎は避けない。
真正面から拳を叩き込む。
激突。
衝撃波。
観客席の壁が吹き飛ぶ。
実況席が揺れる。
誰も声を出せなかった。
殴り合いの規模ではない。
――怪獣戦争だった。
◇
バルガンの拳が士郎の腹へ突き刺さる。
轟音。
士郎の身体が吹き飛ぶ。
壁へ激突。
石壁が崩落する。
観客が熱狂する。
「決まったァァァ!!」
しかし。
煙の中から。
笑い声。
士郎だった。
血を吐きながら。
笑っている。
「最高だ」
観客席が静まり返る。
誰かが呟く。
「なんだアイツ……」
◇
バルガンも笑っていた。
「お前、本当に人間か?」
士郎は瓦礫を払いながら立ち上がる。
「知らん」
そして。
踏み込む。
轟音。
今度は士郎が突撃した。
拳。
肘。
膝。
人体破壊術。
全部急所。
全部必殺。
バルガンの巨体が揺れる。
肋骨が砕ける音。
血飛沫。
それでも。
バルガンは倒れない。
◇
観客たちは完全に飲まれていた。
「なんで立ってる!?」
「化け物だろ!!」
「どっちも!!」
リゼは顔をしかめる。
「もう試合じゃないよこれ……」
エレノアは静かに笑った。
「最初からそうでしょう?」
◇
その時。
バルガンが咆哮する。
闘気爆発。
筋肉がさらに膨張する。
実況が絶叫した。
「限界突破ァァァ!!」
地下闘技都市最強。
その本気。
バルガンが地面を砕きながら突進する。
士郎は笑う。
黒い靄がわずかに漏れた。
エレノアの赤い瞳が細くなる。
「……また濃くなった」
◇
次の瞬間。
両者が激突する。
拳。
真正面。
一歩も引かない。
轟音。
闘技場全体が揺れる。
そして。
バルガンの腕が砕けた。
静寂。
観客たちの顔が凍る。
士郎の拳。
ただ一撃。
それだけで。
巨鬼化したバルガンの腕が、内側から爆散していた。
バルガン自身も目を見開く。
「……は?」
士郎は少し笑う。
「終わりか?」
その瞬間。
地下闘技場全体が静まり返った。




