第59話 百戦無敗
地下闘技都市グラディウス。
巨大円形闘技場。
数万人の観客が熱狂していた。
「殺せぇぇぇ!!」
「バルガン!!」
「潰せぇぇぇ!!」
血。
酒。
狂気。
それがこの都市の日常だった。
◇
闘技場中央。
巨人のような男が立っている。
百戦無敗。
“巨人殺し”バルガン。
二メートルを超える巨体。
鋼のような筋肉。
人間離れした怪力。
今まで百人以上を闘技場で殺してきた怪物。
そのバルガンが。
観客席の士郎を睨んでいた。
「降りてこい」
歓声が爆発する。
新しい獲物。
新しい殺し合い。
観客たちは興奮していた。
◇
士郎は静かに闘技場へ降りる。
黒いコート。
無表情。
――それでも。
その目だけは獰猛だった。
実況が叫ぶ。
「挑戦者ァァァ!! 無名!! 所属不明!! 名前も分からねぇぇぇ!!」
観客が笑う。
「秒殺だ!!」
「バルガンに勝てるわけねぇ!!」
リゼは頭を抱えていた。
「なんで毎回こうなるの……」
エレノアは楽しそうに笑う。
「運命じゃない?」
◇
闘技場中央。
バルガンは士郎を見下ろす。
「名前は?」
「士郎」
「そうか」
バルガンは笑う。
獰猛に。
「死ぬなよ」
次の瞬間。
轟音。
バルガンが地面を砕きながら突進した。
速い。
巨体とは思えない。
観客が熱狂する。
しかし。
士郎は避けない。
真正面から拳を叩き込んだ。
激突。
空気が爆ぜる。
静寂。
そして。
観客たちの顔が凍った。
止まっていた。
バルガンの突進が。
――拳一つで。
◇
バルガンの目が見開かれる。
士郎は少し笑った。
「悪くない」
次の瞬間。
拳。
ドゴォォォォン!!!
バルガンの巨体が吹き飛ぶ。
闘技場外壁へ激突。
石壁が陥没する。
観客席が静まり返った。
実況すら止まる。
「……え?」
◇
しかし。
バルガンは立ち上がった。
口から血を流しながら。
そして。
笑った。
「最高だ……!」
完全に戦闘狂だった。
再び突っ込む。
連打。
重い。
速い。
普通の戦士なら肉片になる。
それでも。
士郎は全部受ける。
避けない。
殴り返す。
轟音。
拳と拳。
真正面からの殴り合い。
観客たちが熱狂し始める。
「なんだアイツ!?」
「真正面から殴り合ってるぞ!!」
「化け物同士かよ!!」
◇
バルガンの拳が士郎の顔面へ入る。
血が飛ぶ。
しかし。
士郎は笑った。
「いい」
その瞬間。
観客席がざわつく。
「笑った……?」
「殴られて笑ってやがる……」
バルガンですら、一瞬だけ寒気を覚えた。
この男。
おかしい。
痛みを恐れていない。
――むしろ。
喜んでいる。
◇
士郎が踏み込む。
拳。
肘。
膝。
人体破壊術。
バルガンの肋骨が砕ける。
巨体が揺れる。
それでも。
バルガンも笑っていた。
「最高だ!!」
完全に意気投合していた。
リゼが頭を抱える。
「なんで戦闘狂ばっか寄ってくるの……」
エレノアは楽しそうだった。
「類友ね」
◇
その時。
バルガンが咆哮する。
全身の筋肉が膨張。
赤黒い闘気が噴き出した。
実況が叫ぶ。
「出たァァァ!! バルガンの“巨鬼化”だァァァ!!」
観客が総立ちになる。
地下闘技都市最強。
その異名の理由。
士郎の口元が歪む。
「強いな」
次の瞬間。
巨鬼化したバルガンが、闘技場を砕きながら突撃した。




