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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第三章 『魔女と死神編』

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第57話 魔女と死神

古代都市アガルタ。


崩壊寸前。


神代文明の塔群が次々倒れていく。


空は黒い魔力で染まり。

地面は裂け。

都市そのものが悲鳴を上げていた。


その中心。


西園寺士郎が立っている。


血まみれで。


黒い靄を纏いながら。



士郎の背後。


巨大な黒い影。


王冠。

赤黒い瞳。

巨大な翼。


――“原初の魔王”。


その輪郭が、今までで最も鮮明に現れていた。


古代兵器群ですら後退る。


本能的に。


恐怖していた。



リゼは震えていた。


士郎ではない。


あの影。


見ているだけで息が苦しい。


エレノアの表情も険しい。


珍しく。


本当に珍しく。


余裕が消えていた。


「予想より早い……」


グランが叫ぶ。


「だから何がだよ!?」


エレノアは士郎を見つめたまま答える。


「魔王化よ」


沈黙。


リゼの顔が凍る。


グランの背筋にも寒気が走った。


目の前にいるのは、もう普通の人間ではない。



その時。


原初の残滓がゆっくり両腕を広げた。


【継承開始】


瞬間。


黒い魔力が士郎へ流れ込む。


轟音。


空間が歪む。


士郎の身体から、さらに濃い黒い靄が噴き出した。


リゼが叫ぶ。


「士郎!!」


しかし。


士郎は笑っていた。


熱い。


身体が軽い。


今まで感じたことのない力。


壊せる。


全部。


そんな感覚が全身を満たしていた。



原初の残滓が笑う。


【貴様は完成する】

【世界を滅ぼす王へ】


その瞬間。


士郎の黒い瞳が、一瞬だけ赤く染まった。


エレノアの顔色が変わる。


「まずい!」


次の瞬間。


士郎が踏み込む。


轟音。


速い。


今までとは別次元。


原初の残滓の眼前へ到達する。


拳。


ドゴォォォォォォォン!!!


空間が砕けた。


原初の残滓の上半身が吹き飛ぶ。


グランが絶句する。


「なっ……!?」


それでも。


残滓は笑っていた。


【素晴らしい】


肉体再生。


黒い肉が蠢き、身体が戻っていく。


士郎はさらに笑う。


獰猛に。


「死ね」



拳。


蹴り。


肘。


人体破壊術。


そこへ。


黒い魔力が混ざり始める。


一撃ごとに空間が歪む。


建物が消し飛ぶ。


古代兵器群が余波だけで崩壊していく。


もはや人間同士の戦いではない。


災害。


神話。


その領域だった。



エレノアは静かに見つめる。


士郎。


原初の残滓。


そして。


士郎の背後に立つ巨大な魔王の影。


確信していた。


西園寺士郎は。


本当に。


“原初の魔王”の器だ。



その時。


原初の残滓が士郎の拳を受けながら、静かに呟く。


【何故、抗う】


士郎は笑う。


「勘違いするな」


【……】


士郎の黒い瞳が細くなる。


「俺を器にできると思ってるのか?」


沈黙。


その瞬間。


エレノアの赤い瞳が見開かれた。


初めてだった。


士郎が。


“力”ではなく。


“自分自身”を選んだ。


原初の魔王ですら。


支配する側に回る。


それが西園寺士郎だった。



原初の残滓が初めて怒気を放つ。


【ならば奪う】


黒い波動。


都市全域を飲み込む超圧力。


それでも。


士郎は真正面から踏み込む。


笑っていた。


「やってみろ」


次の瞬間。


士郎の拳が、原初の残滓の核を貫いた。


静寂。


そして。


原初の残滓の身体が崩壊を始める。


黒い灰。


風化。


消滅。


最後に。


残滓は静かに笑った。


【いずれ貴様は理解する】

【自分が何者かを】


そして。


原初の魔王の残滓は、完全に消滅した。



静寂。


崩壊するアガルタ。


士郎はその場に立っていた。


全身血まみれ。


黒い靄は、まだ消えていない。


エレノアが近づく。


赤い瞳で士郎を見る。


そして。


静かに言った。


「あなた、本当に魔王になるわ」


沈黙。


リゼが不安そうに士郎を見る。


しかし。


士郎は少し笑った。


「だからどうした」


その言葉に。


エレノアは妖艶に笑う。


嬉しそうに。


恐ろしいほどに。



崩壊する古代都市。


黒い灰が舞う。


士郎は血まみれのまま歩き出す。


エレノアが隣へ並ぶ。


リゼは不安そうに士郎の背中を見る。


そして後方では。


グランが瓦礫を見ながら、乾いた笑いを漏らしていた。


「……もう傭兵辞めようかな」


誰も答えない。


グランは士郎の背中を見る。


黒い靄。


血まみれのコート。


まるで本物の魔王。


――それでも。


その背中から、不思議と目が離せなかった。


崩壊する古代都市を後にしながら。


黒狼たちは、静かに次の地獄へ向かっていく。


第三章『魔女と死神編』 完。

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