第56話 原初の残滓
古代都市アガルタ。
崩壊。
塔が倒れ。
地面が裂け。
神代文明の遺跡が、音を立てて死んでいく。
その中心。
黒狼――西園寺士郎。
そして。
“原初の魔王の残滓”。
◇
黒い玉座の上。
王冠を被った異形が、ゆっくり立ち上がる。
巨大。
禍々しい。
黒い靄。
まるで。
士郎の背後に現れる影、そのものだった。
リゼは震えていた。
「なんで……似てるの……」
エレノアは静かに答える。
「当然よ」
赤い瞳が細くなる。
「士郎の中にいる“魔王”の元だから」
沈黙。
グランの顔が引きつる。
「おい待て、今さらっとヤバいこと言ったぞ」
◇
その時。
原初の残滓が、士郎へ手を伸ばした。
黒い波動。
空間が歪む。
普通の人間なら、存在ごと潰される。
それでも。
士郎は笑った。
真正面から踏み込む。
拳。
轟音。
黒波動と激突。
都市全体が揺れる。
◇
しかし。
今までの敵とは違う。
原初の残滓は、士郎の拳を片手で止めた。
静寂。
士郎の目が細くなる。
「……いい」
初めてだった。
真正面から、純粋な力で止められたのは。
残滓の赤黒い瞳が士郎を見る。
そして。
笑う。
【継承者】
頭へ直接響く声。
低い。
古い。
世界の底から聞こえるような声。
士郎は構わず拳を叩き込む。
轟音。
残滓の顔面が揺れる。
それでも。
崩れない。
次の瞬間。
黒い腕が士郎を吹き飛ばした。
建物を貫通。
都市が崩れる。
リゼが絶叫する。
「士郎!!」
◇
煙。
――その直後。
黒い影が飛び出した。
士郎。
血まみれ。
それでも笑っている。
「最高だ」
グランが頭を抱える。
「もう嫌だこの戦闘狂……」
◇
エレノアは静かに士郎を見る。
黒い靄。
限界寸前。
あと少しで、本当に“向こう側”へ行く。
しかし。
士郎自身は気づいていない。
ただ。
強敵との戦いに熱狂しているだけ。
エレノアは小さく呟く。
「まだ壊れないでよ」
◇
その時。
原初の残滓が両腕を広げた。
黒い魔力が都市中へ広がる。
瞬間。
アガルタ内部に眠っていた古代兵器群が、一斉に起動した。
赤い光。
無数。
数千。
リゼの顔が青ざめる。
「うそ……」
グランが絶望した顔をする。
「軍隊かよ……!」
エレノアの目が細くなる。
「……王都一つ滅ぼせるわね」
◇
古代兵器群が士郎を見た。
【魔王確認】
【殲滅開始】
次の瞬間。
一斉砲撃。
光の雨。
都市そのものが吹き飛ぶ。
それでも。
士郎は笑った。
そして。
前へ出る。
砲撃を受けながら。
黒い靄が全身から噴き出す。
拳。
蹴り。
肘。
人体破壊術。
古代兵器群が次々砕け散る。
その姿は。
もう人間ではなかった。
災厄。
破壊。
戦場の悪魔。
そのもの。
◇
原初の残滓は、そんな士郎を静かに見つめる。
そして。
初めて。
満足そうに笑った。
【やはり】
【貴様は器だ】
その瞬間。
士郎の背後。
巨大な黒い魔王の影が、完全な姿で現れ始める。
王冠。
赤黒い瞳。
巨大な翼。
世界を威圧する存在感。
エレノアの顔から、ついに笑みが消えた。
「……まずいわね」
リゼが震える。
「な、何が起きてるの……」
エレノアは士郎を見つめる。
そして。
静かに呟いた。
「魔王が、目覚め始めてる」




