第55話 魔王の玉座
古代都市アガルタ。
最深部。
黒門の奥から現れた“玉座”。
それは、生きていた。
黒い肉塊。
脈動する血管。
無数の赤い眼。
巨大な王冠状の骨。
そして。
その中心に座る“何か”。
人型に近い。
――だが、人間ではない。
世界そのものが拒絶するような存在感。
リゼの身体が震える。
「……なに、あれ」
声が掠れていた。
本能が理解してしまう。
あれを見てはいけない。
◇
エレノアですら笑みを消していた。
赤い瞳が細くなる。
「神代文明……本当に狂ってるわね」
グランは武器を握る手を強張らせた。
「おいおい……あれも兵器か?」
エレノアは静かに首を振る。
「違う」
そして。
ゆっくり呟く。
「“魔王の玉座”よ」
沈黙。
空気が凍った。
◇
その時。
玉座中央の“何か”が動いた。
赤黒い瞳。
ゆっくり士郎を見る。
瞬間。
古代都市全域が震えた。
【魔王因子確認】
【適合率……測定不能】
【継承資格認定開始】
機械音声。
しかし。
その声には、どこか“歓喜”が混じっていた。
リゼが叫ぶ。
「継承って何!?」
エレノアの表情が険しくなる。
「士郎から離れなさい」
珍しく本気だった。
危険。
今この場は、本当に危険。
◇
それでも。
士郎は笑っていた。
「強いな」
そこしか見ていない。
玉座から溢れる圧力。
殺気。
破壊衝動。
その全てが、士郎を熱くしていた。
死ねるかもしれない。
その感覚が心地いい。
◇
次の瞬間。
魔王の玉座から黒い腕が伸びた。
巨大。
建物サイズ。
超高速。
士郎へ襲いかかる。
轟音。
士郎は拳で迎撃。
激突。
衝撃波。
空間が歪む。
しかし、止まらない。
黒腕が士郎を押し込む。
地面が陥没。
リゼが悲鳴を上げる。
「士郎!!」
その中心で。
士郎は笑った。
「いい」
完全に戦闘狂だった。
◇
士郎が踏み込む。
拳。
連撃。
黒腕が砕ける。
再生。
さらに別の腕が伸びる。
無数。
空間を埋め尽くす。
エレノアが前へ出た。
灰色魔法陣展開。
「邪魔」
空間圧縮。
黒腕の群れが捻じ潰される。
それでも。
玉座本体は揺るがない。
エレノアの目が細くなる。
「相当古いわね……」
◇
その時。
玉座中央の“何か”が、ゆっくり立ち上がった。
巨大。
黒いローブ状の肉。
王冠。
赤い瞳。
そして。
士郎と同じ。
黒い靄。
リゼの顔が凍る。
「……嘘」
似ていた。
あまりにも。
士郎の背後に現れる黒い影と。
エレノアは静かに呟く。
「原初の魔王の残滓……」
その瞬間。
士郎の身体から黒い靄が噴き出した。
今までで最大。
空気が重い。
都市全体が唸る。
玉座の“何か”が、士郎へ手を伸ばした。
【継承者】
機械音声ではない。
直接、頭へ響く声。
低い。
古い。
世界の底から響くような声。
リゼが震える。
「やめて……」
それでも。
士郎は笑った。
獰猛に。
「面白い」
◇
次の瞬間。
玉座から黒い波動が放たれる。
轟音。
アガルタ全体が崩壊を始めた。
グランが叫ぶ。
「都市が崩れるぞ!!」
それでも。
士郎は動かない。
玉座を見ている。
いや。
その奥にいる“何か”だけを見ていた。
そして。
ゆっくり拳を握る。
「お前」
黒い瞳が細くなる。
「強いな」
その瞬間。
原初の魔王の残滓が、初めて笑った。




