第53話 原初の影
古代都市アガルタ。
崩壊。
塔が倒れ。
地面が裂け。
神代文明の遺跡そのものが悲鳴を上げていた。
その中心。
黒狼――西園寺士郎。
そして。
対魔王最終兵装。
古代騎士。
◇
古代騎士は後退っていた。
兵器であるはずなのに。
恐怖している。
赤い単眼が激しく明滅する。
【原初魔王反応】
【危険度測定不能】
【緊急殲滅対象】
機械音声に、初めて“焦り”のようなものが混じる。
リゼは震えていた。
今の黒い影。
あれは何だったのか。
士郎の背後に現れた巨大な存在。
見てはいけないものを見た気がした。
◇
士郎は静かに歩く。
血まみれ。
全身傷だらけ。
それでも。
止まらない。
古代騎士が巨大剣を構える。
背後の光輪が最大展開。
都市中の魔力が収束していく。
エレノアの赤い瞳が細くなる。
「アガルタの全エネルギーを使う気ね」
グランの顔が青ざめる。
「つまり?」
「都市ごと吹き飛ばす」
沈黙。
リゼが絶句する。
だが。
士郎だけは笑っていた。
「いい」
◇
古代騎士が機械音声を響かせる。
【対魔王最終殲滅砲】
【発射準備完了】
次の瞬間。
光輪の中心へ、超高密度魔力が収束した。
赤黒い光。
空間が歪む。
都市全域が震える。
エレノアですら眉をひそめた。
「これは少し危険ね」
リゼが叫ぶ。
「少し!?」
◇
士郎は前へ出る。
黒い靄。
今までで最大。
身体の奥が熱い。
何かが目覚めようとしている。
壊したい。
殺したい。
全部叩き潰したい。
その衝動が膨れ上がる。
だが。
士郎は笑った。
心地いい。
今までで一番、生きている感じがする。
◇
発射。
轟音。
赤黒い奔流が都市を飲み込む。
世界が白く染まった。
リゼが悲鳴を上げる。
グランも目を覆う。
だが。
エレノアだけは見ていた。
その先を。
◇
爆炎の中心。
黒い影。
士郎。
砲撃を真正面から受けながら、前へ進んでいる。
皮膚が裂ける。
肉が焼ける。
血が飛ぶ。
それでも。
止まらない。
古代騎士の赤眼が激しく揺れる。
【理解不能】
【理解不能】
【理解不能】
士郎は笑った。
「終わりか?」
次の瞬間。
士郎の背後。
巨大な黒い影が完全に現れる。
王冠のような角。
赤黒い瞳。
世界そのものを威圧する存在感。
エレノアが静かに呟く。
「……原初の魔王」
リゼの顔が凍る。
グランは声も出ない。
◇
だが。
士郎本人は気づいていなかった。
ただ。
拳を握る。
黒い靄が拳へ集束する。
空間が軋む。
古代騎士が後退る。
兵器なのに。
本能的に恐怖していた。
そして。
士郎が踏み込む。
轟音。
地面が消し飛ぶ。
拳。
ドゴォォォォォォォォン!!!
世界が揺れた。
古代騎士の胸部が陥没する。
黒鎧が砕ける。
内部の赤い核が露出した。
士郎はさらに踏み込む。
二撃目。
拳。
核を貫通。
静寂。
次の瞬間。
古代騎士が崩壊を始めた。
赤い光が消えていく。
【対魔王機構……停止……】
そして。
神代文明最終防衛機構は、完全に沈黙した。
◇
静寂。
崩壊するアガルタ。
その中心で。
士郎だけが立っていた。
血まみれで。
黒い靄を纏いながら。
エレノアは静かに笑う。
確信していた。
この男は。
いずれ本当に世界を壊す。
だが。
それでも目を離せない。
美しすぎるほど、危険だった。
◇
その時。
アガルタ最奥。
巨大な黒門が、ゆっくり開き始める。
轟音。
古代文字。
溢れ出す禍々しい魔力。
エレノアの表情が変わった。
「……嘘」
リゼが震える。
「な、なに……?」
エレノアは黒門を見つめながら呟く。
「魔王城への門よ」
沈黙。
士郎の口元が、ゆっくり歪む。
「面白い」
古代都市アガルタ。
その最深部で。
“世界の秘密”が、ついに姿を現そうとしていた。




