第48話 灰の同行者
災厄級魔獣討伐から三日。
王都ヴァルディアは、未だ混乱の中にあった。
崩壊した街区。
大量の死傷者。
そして。
“黒狼”と“灰の魔女”。
二つの災厄が同時に現れたことで、人々の恐怖はさらに膨れ上がっていた。
◇
王城。
謁見の間。
王国上層部は重苦しい空気に包まれていた。
机の上には報告書。
【災厄級魔獣討伐】
【王都被害甚大】
【討伐者:西園寺士郎、灰の魔女エレノア】
幹部の一人が頭を抱える。
「なぜ灰の魔女が王都にいる……」
別の男が低く言う。
「問題はそこじゃない」
沈黙。
全員分かっていた。
問題は黒狼。
士郎の危険性は、もはや国家管理レベルを超えている。
だが。
止められる人間がいない。
◇
その頃。
士郎は王都の宿屋で肉を食っていた。
大量。
山盛り。
リゼが呆れた顔をする。
「ほんとよく食べるよね……」
「腹が減る」
最近特に酷い。
戦うたび。
黒い力が漏れるたび。
身体が飢える。
その時。
宿屋の扉が開いた。
銀髪。
赤い瞳。
灰のローブ。
エレノア。
周囲の客が一斉に固まる。
空気が凍った。
エレノアは気にせず士郎の前へ座る。
「来たわよ」
リゼが嫌そうな顔をする。
「なんで普通に来るの……」
「面白い男がいるから」
即答。
士郎は肉を食いながら聞く。
「なんの用だ」
エレノアは笑った。
「あなたについていく」
沈黙。
リゼが吹き出す。
「は?」
◇
士郎は興味なさそうだった。
「勝手にしろ」
「軽っ!?」
リゼが叫ぶ。
だが。
エレノアは満足そうだった。
「やっぱり好きよ、その反応」
普通なら拒絶する。
警戒する。
だがこの男は違う。
本当に、自分へ興味がない。
それが逆に面白かった。
◇
エレノアは士郎を見つめる。
赤い瞳。
獲物を見るような視線。
「あなた、自分の中のものを知らなすぎる」
士郎は肉を食いながら答える。
「興味ない」
「私はあるの」
即答だった。
リゼが完全に引いている。
エレノアは静かに続ける。
「“魔王因子”はただの力じゃない」
宿屋の空気が重くなる。
周囲の客たちも息を呑んでいた。
エレノアは指を組む。
「昔、この世界には“原初の魔王”がいた」
「……」
「世界を半壊させた怪物よ」
リゼの顔が青ざめる。
だが。
士郎は平然としていた。
エレノアは笑う。
「その力が、あなたの中にある」
沈黙。
士郎は少し考える。
そして。
「強いのか?」
リゼが頭を抱えた。
「そこ!?」
エレノアは本気で笑った。
「ええ。多分、この世界で一番」
その瞬間。
士郎の口元が僅かに歪む。
◇
宿屋の外。
王都の人々は遠巻きに見ていた。
黒狼。
灰の魔女。
並んで座っているだけで怖い。
誰かが呟く。
「終わった……」
「王都に災厄が二人いる……」
完全に扱いが怪談だった。
◇
夜。
宿屋屋上。
士郎は一人で夜空を見ていた。
そこへエレノアが来る。
「また眠れない?」
「ああ」
エレノアは隣へ立つ。
しばらく沈黙。
やがて。
エレノアが静かに言った。
「古代都市へ行きましょう」
士郎の目が細くなる。
「なんだそれは」
「神代文明の遺跡」
エレノアは笑う。
「あなたの中の“魔王因子”について知りたいなら、丁度いい場所よ」
そして。
赤い瞳が細くなる。
「きっと、退屈しないわ」
その言葉に。
士郎は少し笑った。
強い敵。
未知。
死に近い場所。
悪くない。
風が吹く。
王都の夜景を見下ろしながら。
黒狼と灰の魔女は、静かに次の地獄を見据えていた。




