第46話 黒核
轟音。
西園寺士郎が災厄級魔獣へ突撃する。
黒いコートが翻る。
兵士たちは息を呑んだ。
真正面。
逃げも隠れもしない。
まるで、死へ向かって走っているみたいだった。
◇
災厄級魔獣が咆哮する。
無数の腕。
黒い刃。
一斉に士郎へ襲いかかる。
だが。
士郎は止まらない。
拳。
肘。
膝。
人体破壊術。
伸びた腕を叩き潰しながら前進する。
轟音。
血飛沫。
黒い肉片が飛び散る。
兵士たちは呆然としていた。
「あんな中を突っ込むのかよ……!」
普通なら近づく前に死ぬ。
だが、士郎は笑っていた。
「いい」
身体が熱い。
死に近い。
その感覚が、たまらなく心地いい。
◇
魔獣の巨腕が士郎を叩き潰そうとする。
士郎は真正面から拳を叩き込む。
激突。
衝撃波。
巨腕が砕ける。
だが、次の瞬間。
別の腕が士郎の脇腹を貫いた。
血飛沫。
リゼが悲鳴を上げる。
「士郎!!」
兵士たちも顔を青ざめさせる。
致命傷。
普通なら。
だが。
士郎は笑った。
「……いいな」
完全に狂っていた。
魔獣の腕を掴む。
そのまま。
引き千切る。
轟音。
黒い血が降り注ぐ。
◇
エレノアは静かに士郎を見ていた。
異常。
痛み。
致命傷。
そんなものが、この男を止めない。
むしろ。
傷つくほど、身体の奥の“何か”が強くなっている。
黒い靄。
濃い。
危険なほど。
エレノアは小さく呟く。
「目覚め始めてる……」
◇
その時。
災厄級魔獣の胸部。
黒い核が脈動する。
士郎の目が細くなる。
あれを壊せば終わる。
本能で分かった。
しかし。
魔獣も必死だった。
無数の腕で核を守る。
さらに。
口腔へ黒い光が集まる。
エレノアの顔が変わる。
「まずい!!」
超高密度魔力砲。
直撃すれば王都中央ごと消し飛ぶ。
兵士たちが絶望する。
逃げる暇もない。
だが。
士郎は笑った。
「最高だ」
次の瞬間。
黒い奔流が放たれる。
轟音。
世界が白く染まる。
◇
爆炎の中。
黒い影が前進していた。
士郎。
全身が焼けている。
血が流れる。
それでも。
止まらない。
兵士たちは言葉を失う。
なんで立っていられる。
なんで笑っている。
士郎は黒い奔流を突っ切りながら進む。
死に近い。
その感覚だけが、今の士郎を生かしていた。
そして。
ついに。
災厄級魔獣の眼前へ到達する。
魔獣の無数の瞳が見開かれた。
士郎が拳を握る。
黒い靄が拳へ集まる。
エレノアの目が細くなる。
「……!」
初めてだった。
士郎が無意識に、“それ”を使った。
◇
士郎が拳を叩き込む。
ドゴォォォォォォォン!!!
黒核が砕けた。
静寂。
次の瞬間。
災厄級魔獣の巨体が崩壊を始める。
絶叫。
肉体が崩れ、黒い灰へ変わっていく。
兵士たちが呆然と呟く。
「倒した……?」
「黒狼が……」
災厄級魔獣。
討伐。
その中心で。
士郎だけが静かに立っていた。
血まみれで。
黒い靄を纏いながら。




