第45話 第二形態
王都が震えていた。
災厄級魔獣。
第二形態。
黒い外殻が砕け、その内側から異形の肉体が露出する。
巨大。
醜悪。
無数の腕。
脈動する黒い肉。
そして。
空を覆うほどの濃密な魔力。
兵士たちは完全に戦意を失っていた。
「む、無理だ……」
「勝てるわけが……」
絶望。
本能で理解してしまう。
あれは人間が相手にしていい存在じゃない。
◇
だが
士郎だけは笑っていた。
「いいな」
その目には恐怖がない。
あるのは歓喜だけ。
災厄級魔獣も士郎を見ていた。
赤い無数の瞳。
敵意。
憎悪。
そして。
本能的な殺意。
“殺すべき存在”として認識している。
エレノアはその様子を見て確信していた。
やはり、この男は。
◇
次の瞬間。
災厄級魔獣が動いた。
速い。
巨体とは思えない速度。
黒い巨腕が士郎へ迫る。
轟音。
士郎は拳で迎え撃つ。
激突。
衝撃波で周囲の建物が吹き飛ぶ。
だが。
今度は止まらなかった。
士郎の身体が地面を滑る。
兵士たちが絶句する。
「黒狼が……押された……!?」
士郎は血を拭う。
そして。
笑った。
「最高だ」
完全に狂人だった。
◇
魔獣が追撃する。
無数の腕。
超高速連撃。
王都の地面が抉れていく。
士郎は回避。
紙一重。
そして踏み込む。
拳。
ドゴォォォン!!
だが。
再生。
砕けた肉体が瞬時に戻る。
士郎の目が細くなる。
「再生か」
エレノアが後方から言う。
「核を潰さない限り無限再生するわ」
「どこだ」
「知らない」
「役に立たんな」
「ひどい」
この状況で軽口を叩いていた。
兵士たちはもう感覚が麻痺している。
◇
その時。
魔獣の口が開いた。
黒い光。
超高密度魔力。
エレノアの顔が変わる。
「伏せなさい!!」
次の瞬間。
黒い奔流が放たれた。
王都中央通りが消し飛ぶ。
轟音。
爆炎。
兵士たちが吹き飛ばされる。
リゼが絶叫する。
「士郎!!」
煙。
静寂。
だが。
その中から、黒い影が歩いてくる。
士郎。
全身血まみれ。
皮膚は焼け、腕も裂けている。
それでも。
倒れていない。
そして。
笑っていた。
「……いい」
兵士たちの顔が引きつる。
完全に異常。
普通なら即死。
なのに。
この男は嬉しそうだった。
◇
エレノアはそんな士郎を見つめる。
黒い靄。
さらに濃くなっている。
まるで、何かが目覚め始めているみたいに。
エレノアは静かに呟く。
「まだ早いわよ……」
士郎が聞く。
「なんだ」
「あなた、今ここで壊れたら困るの」
その言葉に。
士郎は少し笑った。
「死ぬ気はない」
「でも死にたがってる」
沈黙。
リゼの顔が曇る。
図星だった。
士郎は戦場でしか、生を感じられない。
だから。
死に近づくほど笑う。
エレノアは静かに言った。
「本当に危険ね、あなた」
◇
その時。
災厄級魔獣の胸部が開く。
内部。
脈動する巨大な黒い核。
エレノアの目が細くなる。
「あれね」
士郎も見る。
核。
魔獣が咆哮する。
守るように無数の腕が展開される。
だが、士郎は笑った。
「分かりやすい」
次の瞬間。
地面を蹴る。
轟音。
黒狼が、真正面から災厄級魔獣へ突撃した。




