第44話 魔王因子
王都中央。
災厄級魔獣の咆哮が空を震わせる。
黒い魔力が噴き出し、周囲の建物が崩壊していく。
兵士たちは後退るしかなかった。
「まだ強くなるのか……!」
「化け物すぎる……!」
だが。
その魔獣を前にして。
士郎は笑っていた。
◇
黒い靄。
士郎の身体から漏れ出す異様な気配。
今までより濃い。
空気が重い。
周囲の兵士たちが震え始める。
本能が拒絶していた。
目の前の男は危険だと。
エレノアは静かに士郎を見る。
赤い瞳。
その奥に、確信が宿っていた。
「間違いないわね」
リゼが振り向く。
「……何が?」
エレノアは静かに言った。
「その男、“原初の魔王”の因子を持ってる」
沈黙。
兵士たちの顔色が変わる。
魔王。
その単語だけで空気が凍る。
リゼが声を震わせる。
「そ、そんなの……」
士郎は興味なさそうだった。
「だからなんだ」
エレノアは笑う。
「普通はもっと驚くのだけれど」
「強ければなんでもいい」
即答。
リゼが頭を抱えた。
エレノアは本気で楽しそうだった。
「本当にあなた、壊れてるわね」
◇
その時。
災厄級魔獣が動いた。
轟音。
黒い魔力砲撃。
王都中央通りが消し飛ぶ。
兵士たちが絶叫する。
だが。
士郎は真正面から突っ込んだ。
爆発。
炎。
煙。
その中から、黒いコートが飛び出す。
兵士たちが目を見開く。
無傷ではない。
全身血まみれ。
だが、止まっていない。
士郎は笑っていた。
「いい」
魔獣の巨腕が振り下ろされる。
士郎は避けない。
真正面から拳を叩き込む。
轟音。
巨腕が砕け散る。
そのまま踏み込む。
肘打ち。
膝蹴り。
連撃。
災厄級魔獣の巨体が揺れる。
◇
エレノアはそんな士郎を見つめていた。
異常。
普通の人間なら、とっくに壊れている。
だが。
この男は違う。
傷つくほど。
死に近づくほど。
生き生きしていく。
エレノアは小さく呟く。
「本当に、“器”なのね」
◇
魔獣が咆哮する。
すると。
王都地下からさらに魔力が溢れた。
エレノアの顔が少し変わる。
「……なるほど」
士郎が聞く。
「なんだ」
「この魔獣、“封印”よ」
兵士たちが凍りつく。
封印。
エレノアは静かに続ける。
「古代文明が、地下へ閉じ込めていた」
そして。
赤い瞳が細くなる。
「多分、“魔王”を殺すために」
沈黙。
士郎の黒い瞳が細くなる。
その時。
災厄級魔獣が士郎を見た。
敵意。
憎悪。
まるで。
“本来殺すべき存在”を見つけたみたいに。
エレノアは確信する。
この魔獣。
士郎へ反応している。
つまり。
西園寺士郎の中には、本当に――。
◇
次の瞬間。
災厄級魔獣の全身が変異を始めた。
外殻が割れる。
黒い肉が膨張する。
兵士たちが絶叫する。
「ま、まだ変化するのか!?」
エレノアの目が細くなる。
「第二形態……」
士郎は笑った。
心の底から嬉しそうに。
「最高だ」
その瞬間。
士郎の背後で。
巨大な黒い影が、一瞬だけ揺らめいた。




