外伝 第2話 煙草の匂い
風が吹く。
寒かった。
妙に。
誰も動かない。
盗賊達も。
避難民達も。
ただ。
倒れた男を見ていた。
死んでいた。
外傷は無い。
血も無い。
殴られていない。
斬られていない。
魔法でもない。
何も。
見えなかった。
なのに。
死んだ。
盗賊の一人が喉を鳴らす。
顔が青い。
震えていた。
「……な」
小さい声。
「何した……?」
答えは無い。
男は空を見ていた。
煙草。
白い煙。
気怠そうな目。
興味も無い。
少し間。
「……朝から気分悪ぃ」
小さい声。
ただ。
それだけ。
まるで。
虫でも踏んだ程度みたいに。
盗賊達の呼吸が止まる。
理解出来ない。
何をされた。
どうやって死んだ。
分からない。
だから。
怖い。
誰かが後ずさる。
剣が震える。
避難民達も声を失っていた。
母親が娘を抱き締める。
娘ももう泣いていない。
ただ。
煙草の男を見ていた。
その時。
若い盗賊が震える声で怒鳴る。
恐怖を押し潰すように。
「ま、魔法か……!?」
男は少し煙を吐く。
目も向けない。
「知らねぇ」
短く。
沈黙。
風。
煙草。
そして。
少しだけ。
面倒そうに。
「帰るか」
少し間。
静かな声。
「死ぬか」
それだけ。
静かだった。
怒鳴りもしない。
脅しにも聞こえない。
なのに。
誰も逆らえなかった。
次。
死ぬ。
そう分かった。
理由なんて分からない。
ただ。
死ぬ。
若い盗賊が剣を落とす。
乾いた音。
震える声。
「……帰る」
小さい声。
一人。
また一人。
後ずさる。
誰も男を見ない。
見れない。
煙草の匂いから逃げるように。
逃げ出す。
そして。
誰も居なくなった。
静かだった。
風だけ。
男は煙草を咥えたまま。
少し空を見る。
興味無さそうに。
歩き出す。
避難民達の横を通る。
誰も動かない。
道が開く。
いや。
開けるしかなかった。
その時だった。
小さな声。
震えながら。
「……ありがとう」
女の子だった。
沈黙。
男の足が。
ほんの少しだけ止まる。
煙草。
白い煙。
少し間。
「……別に」
短く。
静かな声。
「うるさかっただけだ」
それだけ。
感情も無い。
優しさも無い。
ただ。
事実を言っただけみたいに。
そして。
また歩き出す。
風が吹く。
誰も止めない。
止められない。
ただ。
煙草の匂いだけが。
そこに残っていた。




