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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
外伝『魔王のいない世界』第一章『魔王亡き世界編』

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外伝 第1話 最も恐ろしい平和


寒かった。


朝なのに。


避難都市は静かじゃない。


泣き声。


怒鳴り声。


咳。


腹の鳴る音。


眠れない夜の続き。


木と布を無理やり組み合わせた家。


泥。


臭い。


痩せた顔。


疲れた目。


ここは都市じゃない。


帝国崩壊後。


生き残った者達が寄り集まった。


ただの生存圏だった。


かつて世界最大国家だった帝国は。


もう無い。


神との戦争。


魔王との戦争。


その果て。


国ごと消えた。


巨大なクレーターだけを残して。


難民達は散った。


家族を失った。


家を失った。


仕事を失った。


未来も失った。


そして。


誰も口にしない事があった。


焚き火の前。


痩せた男が小さく呟く。


「……腹減った」


隣の老婆が乾いた笑いを漏らす。


「まだ言えるだけ元気さね」


少し間。


男が周囲を見る。


誰にも聞かれないように。


本当に小さい声。


「……でもよ」


止まる。


迷う。


言ってはいけない。


そんな空気。


だが。


疲れ切った女が目を伏せた。


「……平和だった」


沈黙。


焚き火が揺れる。


男が唇を噛む。


「魔王が居た頃の方が」


誰も怒らない。


否定もしない。


出来なかった。


逆らえば死ぬ。


悪事を働けば死ぬ。


恐怖だった。


怪物だった。


だが。


飯はあった。


寝れた。


盗賊は少なかった。


子供は死ににくかった。


老婆が静かに息を吐く。


「恐ろしい時代だったよ」


少し間。


「でも」


焚き火を見る。


「平和だった」


その時だった。


遠く。


怒鳴り声。


悲鳴。


騒ぎ。


避難民達の顔が変わる。


誰かが舌打ちした。


「……またか」


最近増えた。


盗賊。


元兵士。


元難民。


昨日まで被害者だった人間。


今日。


奪う側に落ちた者達。


木柵の向こう。


怒号が響く。


「食料出せ!!」


「隠してんだろ!!」


女の悲鳴。


子供の泣き声。


誰も動かない。


動けない。


守る者が居ない。


騎士も。


兵士も。


魔王も。


もう居ない。


小さな女の子が母親にしがみつく。


震える声。


「……怖い」


母親は抱き締めるしかない。


その時だった。


風が吹く。


男達の後ろ。


足音。


静か。


ゆっくり。


近付いてくる。


誰かが振り向く。


止まった。


長身。


黒い服。


少し乱れた黒髪。


整い過ぎた顔立ち。


気怠そうな目。


指先には煙草。


若い。


三十前後。


ただ。


何故か。


少し寒かった。


威圧ではない。


殺気でもない。


なのに。


本能が。


近付くなと告げていた。


男が煙を吐く。


面倒そうな顔。


少し間。


«「……朝からうるせぇな」»


小さい声。


盗賊達が顔をしかめる。


先頭の男が怒鳴る。


「何だてめぇ!」


男は少し空を見る。


興味無さそうに。


煙草を咥え直す。


「知らねぇ」


短く。


「腹減ってんなら働け」


静かな声。


先頭の男が顔を歪める。


「綺麗事言ってんじゃねぇ!」


剣を向ける。


震える声。


「死にてぇのか!」


沈黙。


風が吹く。


男が。


ほんの少しだけ。


目を向けた。


煙草。


白い煙。


少し間。


「……あ?」


小さい声。


次の瞬間だった。


男の身体が止まる。


沈黙。


剣が落ちる。


乾いた音。


一歩。


ふらつく。


二歩。


そして。


崩れた。


音も無い。


外傷も無い。


血も無い。


ただ。


死んでいた。


沈黙。


誰かの喉が鳴る。


何も見えなかった。


何も起きていない。


なのに。


死んだ。


男は煙草を咥えたまま。


空を見ている。


面倒そうに。


「……朝から気分悪ぃ」


小さい声。


煙を吐く。


そして。


興味無さそうに。


「帰るか」


少し間。


静かな声。


「死ぬか」


風が吹く。


盗賊達の顔が青くなる。


そして。


誰かが。


煙草の匂いに気付いた。


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