第二部 第228話 因縁
静寂が落ちていた。
誰も動かない。
崩れた石床。
砕けた空間。
壊れたまま。
終わらないまま。
それでも。
空気だけが少し違っていた。
最初の観測者が、まだ少し笑っていた。
本当に少しだけ。
ぎこちなく。
けれど確かに。
笑うものが、小さく息を吐く。
『……言ったな』
少し間。
『楽しかったって』
小さい声。
今度はツッコミではなかった。
ただの確認みたいだった。
最初の観測者は静かだった。
少し間。
「恐らく」
静かな声。
「忘れます」
沈黙。
ほんの少しだけ。
困ったような沈黙。
「ですが」
小さい声。
「今は覚えています」
士郎が鼻を鳴らした。
少し笑っていた。
「なら十分だろ」
短く。
「また忘れたら」
拳を握る。
骨が鳴る。
「また殴る」
翔が煙を吐く。
静かな目。
少し間。
「また気分悪くなるけどな」
短く。
「付き合ってやる」
最初の観測者が少し止まる。
翔を見る。
士郎を見る。
本当に長い沈黙。
そして。
ほんの少しだけ。
口元が緩む。
「……そうですね」
小さい声。
「それでいいのかもしれません」
セレナが静かな目を向ける。
小さい声。
「私も」
少し間。
「ずっと見てきました」
静かな声。
「あなたほどではありませんが」
長い沈黙。
ほんの少しだけ。
目が細くなる。
「終わらない終わり方も」
少し間。
「あるのですね」
沈黙。
最初の観測者が少し止まる。
小さい声。
「終わらない」
少し間。
ほんの少しだけ。
口元が緩む。
「……そうですね」
静かな声。
「悪くありません」
士郎が少し笑った。
目が細い。
最初の観測者を見る。
少し間。
「お前とは」
短く。
「因縁ができちまったな」
静寂。
最初の観測者が少し止まる。
「因縁」
小さい声。
初めて聞く言葉みたいに。
翔が煙を吐いた。
静かな声。
「いつか切りに来るから」
少し間。
「覚悟しとけよ」
長い沈黙。
最初の観測者は二人を見る。
理解できない。
観測できない。
終われない。
壊れない。
気持ち悪い。
なのに。
ほんの少しだけ。
口元が緩む。
前より自然に。
「……悪くありません」
少し間。
静かな声。
「記録しておきますね」
沈黙。
そして。
何でもないみたいに。
小さい声。
「そういえば」
少し間。
「私は行った事はないのですが」
静かな声。
「並行世界というものがあるらしいですよ」
静寂。
セレナの目が止まる。
笑うものも止まる。
最初の観測者だけが静かだった。
ほんの少しだけ。
口元が緩む。
「そっちの私は」
少し間。
「強いのですかね……?」
沈黙。
士郎が鼻を鳴らした。
「知らねぇ」
短く。
少し笑う。
「居たら殴る」
翔が煙を吐く。
静かな声。
「増えんな」
短く。
「面倒だ」
最初の観測者が。
ほんの少しだけ笑った。
「……そうですね」
崩れた空間。
終われない怪物達。
けれど。
目覚めてから今まで。
ほんの少しだけ。
世界は退屈ではなかった。
第二部 第七章 怪物達編 完
――第二部 魔王と死神 完――




