第二部 第225話 残らない
長い沈黙が落ちていた。
誰も動かない。
崩れた石床。
砕けた空間。
最初の観測者だけが、少し止まっていた。
「……したい」
小さい声。
初めて覚えた感覚みたいに。
言葉を確かめるようだった。
少し間。
そして。
ほんの少しだけ。
首を傾げる。
「ですが」
静かな声。
「変です」
翔が煙を吐いた。
静かな目。
「何が」
最初の観測者は少し考える。
長い沈黙。
本当に長い時間。
小さい声。
「消えます」
沈黙。
士郎が眉を動かす。
「あ?」
最初の観測者は静かだった。
自分の胸を見る。
少し間。
「楽しい」
静かな声。
「面白い」
「また話したい」
ほんの少しだけ。
困るみたいな目。
「そう思います」
少し間。
「ですが」
静かな声。
「残りません」
沈黙。
セレナの目が少し細くなる。
小さい声。
「……結果否定」
最初の観測者は静かに頷いた。
「恐らく」
少し間。
「感情も」
静かな声。
「定着しません」
遠くを見る目。
本当に遠く。
何億年という時間を見るみたいに。
「なので」
少し間。
「時々」
ほんの少しだけ。
困ったような沈黙。
「分からなくなります」
翔が煙を吐いた。
静かな目。
「覚えてねぇのか」
最初の観測者は少し止まる。
小さい声。
「……記録しています」
沈黙。
笑うものが止まる。
『記録?』
最初の観測者は静かだった。
「時々」
少し間。
「読み返します」
静かな声。
「“楽しかったらしい”」
少し間。
「“また会いたかったらしい”」
ほんの少しだけ。
目が揺れる。
「ですが」
小さい声。
「何故そう思ったのか」
少し間。
「分からない事があります」
沈黙。
誰もすぐには言葉を返さなかった。
セレナが初めて少し目を伏せる。
静かな声。
「……だから」
少し間。
「生命より」
「非生命に近い」
最初の観測者は静かだった。
否定しない。
肯定もしない。
ただ。
小さい声。
「かもしれません」
翔が煙を吐いた。
静かな目。
少し間。
「……気分よくねぇな」
短く。
「それ」
士郎が鼻を鳴らす。
面倒そうだった。
「なら」
短く。
「今のうちに楽しめ」
少し間。
目が細い。
「忘れても」
短く。
「また殴ればいい」
沈黙。
最初の観測者が少し止まる。
ほんの少しだけ。
口元が緩む。
「……そうですね」
小さい声。
「今は」
少し間。
「少し」
静かな声。
「楽しいです」




