第二部 第216話 理解不能
静寂が落ちた。
崩れた石床。
砕けた空間。
誰も動かない。
最初の観測者だけが、士郎と翔を見ていた。
本当に長い時間。
世界を見てきた目で。
そして。
初めて。
少しだけ困ったような顔をしていた。
笑うものが固まる。
『いや待て』
少し間。
『困る事あるんだ……?』
最初の観測者は静かだった。
小さい声。
「あります」
沈黙。
「理解できません」
士郎が鼻を鳴らす。
面倒そうだった。
「別に理解しなくていいだろ」
短く。
「殴り合えりゃ十分だ」
笑うものが頭を抱える。
『発想が戦闘狂なんだよ!!』
翔が煙を吐く。
静かな目。
最初の観測者を見る。
「理解してどうする」
少し間。
「管理する気か?」
最初の観測者は首を横に振った。
小さい声。
「違います」
静かな声。
「私は管理しません」
少し間。
「した事もありません」
セレナが静かに聞いていた。
最初の観測者は続ける。
「ただ」
少し間。
「知りたいのです」
沈黙。
士郎が少し笑った。
「分からねぇな」
短く。
「俺も」
最初の観測者が止まる。
士郎は肩を竦めた。
「何で強くなりたいのか」
少し間。
「何で殴りたいのか」
笑う。
「考えた事ねぇ」
笑うものが呆れた顔になる。
『最低の回答だな!?』
翔が煙を吐いた。
静かな声。
「俺も似たようなもんだ」
少し間。
「理由なんか後付けだろ」
沈黙。
最初の観測者は静かに二人を見る。
理解できない。
本当に。
理解できなかった。
長い時間。
世界を見てきた。
絶望も。
希望も。
愛も。
憎しみも。
見てきた。
だが。
目の前の二人は違う。
理屈が通じない。
理由が無い。
それなのに。
折れない。
壊れない。
諦めない。
小さい声。
「……不思議です」
士郎が少し笑った。
目が細い。
「そうか?」
短く。
「普通だろ」
笑うものが即座に叫ぶ。
『普通じゃねぇよ!!』
その瞬間だった。
最初の観測者の口元が。
ほんの少しだけ。
上がった。
笑った。
というには小さすぎる。
だが。
確かに。
今まで無かった表情だった。
セレナが静かに目を細める。
最初の観測者自身も。
少し驚いたようだった。
「……なるほど」
小さい声。
「これが」
少し間。
「面白い、ですか」
誰に向けた言葉でもなかった。




