第二部 第215話 観測不能
石床が砕けた。
轟音。
士郎の姿が消える。
真正面。
躊躇も無い。
拳。
空間ごと叩き潰す暴力。
最初の観測者の顔面が沈む。
頭蓋が砕ける。
身体が崩れる。
普通なら。
終わる。
だが。
次の瞬間。
何も無かった。
傷も。
血も。
壊れた痕跡すら。
ただ。
静かに立っている。
士郎が少し笑った。
目が細い。
「で?」
短く。
「分かったか」
最初の観測者は静かだった。
少し間。
小さい声。
「……分かりません」
長い沈黙。
静かな目。
「壊れています」
少し間。
「死んでいます」
ほんの少しだけ。
目が細くなる。
「なのに」
小さい声。
「壊れ終わらない」
翔が煙を吐く。
静かな目。
「お互い様だろ」
短く。
「お前も気持ち悪りぃ」
笑うものが乾いた顔になる。
『いやもう会話が怪物同士なんだよ……』
最初の観測者は、初めて少し考えるようだった。
長い時間。
理解しようとする沈黙。
そして。
小さい声。
「……観えません」
セレナが少し目を細める。
「観えない?」
最初の観測者は静かに士郎を見る。
次に翔を見る。
小さい声。
「壊れる理由は観えます」
少し間。
「死ぬ理由も観えます」
静かな声。
「でも」
ほんの少しだけ。
迷うような沈黙。
「壊れない理由が観えません」
翔の煙が止まる。
少し間。
「……理由なんかあるか?」
士郎が鼻を鳴らした。
面倒そうだった。
「無ぇだろ」
短く。
「壊れねぇから壊れねぇ」
笑うものが止まる。
『説明が雑すぎる!!』
セレナが静かに最初の観測者を見ていた。
小さい声。
「……初めてなんですね」
最初の観測者が少し目を向ける。
セレナは静かなままだった。
「理解できない相手」
長い沈黙。
最初の観測者は否定しなかった。
ただ。
士郎と翔を見る。
本当に長い時間。
世界を見てきた目で。
そして。
小さい声。
「……そうかもしれません」
初めてだった。
最初の観測者が。
少しだけ。
困ったような顔をした。




