第二部 第211話 適応
崩れる。
戻る。
死ぬ。
戻る。
終われない痛み。
身体は元に戻る。
だが。
感覚だけが残る。
普通なら。
もう壊れている。
笑うものが引き攣った顔になる。
『いや普通おかしくなるだろ……』
士郎は右肩を回していた。
崩れた感覚を確かめるように。
拳を握る。
開く。
少し間。
「なるほど」
短く。
「癖あるな」
笑うものが止まる。
『攻撃の感想みたいに言うな!?』
翔が煙を吐いた。
静かな目。
最初の観測者を見る。
少し間。
「……慣れる」
小さい声。
最初の観測者が初めて少し止まる。
「慣れる?」
翔は静かなままだった。
「痛みは情報だ」
少し間。
「死ぬ感覚も」
煙を吐く。
「何回か食らえば読む」
沈黙。
最初の観測者が初めて少しだけ目を細めた。
理解しようとする目だった。
次の瞬間。
指先が動く。
予兆は無い。
翔の胸が崩れた。
肋骨。
肺。
心臓。
死ぬ感覚。
激痛。
普通なら終わる。
だが。
次の瞬間。
戻る。
完全に。
翔は煙を吐いた。
少し間。
静かな声。
「……今のか」
最初の観測者が止まる。
「分かるのですか」
翔は少し目を細めた。
「遅い」
短く。
「壊れる前に」
少し間。
「何となく分かる」
士郎が少し笑った。
目が細い。
「攻略できそうか?」
翔が煙を吐く。
静かな声。
「まだだ」
少し間。
「でも」
最初の観測者を見る。
「気持ち悪さは減った」
セレナが小さく目を細める。
静かな声。
「……適応してる」
笑うものが乾いた顔になる。
『いや待て』
少し間。
『何で精神攻撃に慣れ始めてんだよお前ら!?』
士郎が肩を鳴らす。
退屈そうだった目が、少しだけ細い。
「いいな」
短く。
「ようやく喧嘩になってきた」
最初の観測者は静かだった。
長い沈黙。
初めて。
ほんの少しだけ。
興味を見る目だった。
「……本当に」
小さい声。
「壊れませんね」




