第二部 第210話 壊れない怪物
静寂は続いていた。
崩れた石床。
砕けた空間。
何度も死ぬ感覚。
終わらない激痛。
普通なら。
もう立てない。
精神が先に壊れる。
だが。
士郎は右腕を握った。
開く。
確かめるように。
そして。
少し笑う。
目が細い。
「いいな」
短く。
「久々に効いた」
笑うものが顔を引き攣らせる。
『いや何で嬉しそうなんだよ!?』
乾いた声。
『普通これ精神壊れるやつだろ!?』
翔が煙を吐いた。
静かな目。
少し間。
「壊れるな」
短く。
「普通なら」
最初の観測者は静かに二人を見ていた。
長い沈黙。
小さい声。
「……壊れませんか」
初めてだった。
ほんの少しだけ。
理解できないものを見る目。
士郎は肩を回す。
崩れた感覚。
死に近かった痛み。
まだ身体が覚えている。
それでも。
鼻を鳴らした。
「効く」
短く。
「だから何だ」
少し間。
「喧嘩だろ」
笑うものが止まる。
『いや意味分かんねぇよ!!』
翔が煙を吐く。
静かな目。
最初の観測者を見る。
「お前」
少し間。
「これで相手壊してたのか」
最初の観測者は少し考える。
静かな声。
「壊れました」
少し間。
「大体は」
果ての見えない空間を見る。
遠いものを見る目。
「数回で」
沈黙。
笑うものが青ざめる。
『怖っ……』
セレナが静かに目を伏せる。
小さい声。
「終われない痛みです」
少し間。
「死ぬ感覚だけが積み重なる」
静かな瞳。
「普通は耐えられません」
士郎が少し笑う。
目が細い。
「なるほどな」
短く。
「で?」
ゆっくり拳を握る。
「何回やれば慣れる?」
沈黙。
笑うものが固まる。
『慣れる前提!?』
翔が煙を吐く。
少し間。
「気持ち悪りぃ」
静かな声。
「でも」
ほんの少しだけ目が細い。
「殺し甲斐あるな」
最初の観測者が止まる。
長い沈黙。
初めてだった。
理解不能を見る目。
小さい声。
「……怪物ですね」
石床の奥。
静かな空間。
初めて。
ほんの少しだけ空気が動いた。




