第二部 第209話 結果否定
崩れた石床。
轟音の余韻だけが残っていた。
士郎の拳。
翔の連撃。
普通なら。
何度終わっていてもおかしくない。
だが。
最初の観測者は立っている。
静かに。
何事も無かったみたいに。
笑うものが顔を引き攣らせた。
『いや待てって……』
少し間。
『もう意味分かんねぇんだけど』
『死んでるのに死んでないって何だよ』
翔が煙を吐く。
静かな目。
少し間。
「死ぬ」
短く。
「でも死なねぇ」
セレナが小さく目を細める。
静かな声。
「壊れています」
少し間。
「でも」
最初の観測者を見る。
「壊れた結果だけが残らない」
笑うものが止まる。
『……は?』
セレナは静かなまま続けた。
「壊れる過程はあります」
少し間。
「でも」
小さい声。
「結果だけが否定されています」
最初の観測者は静かだった。
否定もしない。
ただ。
小さい声。
「近いです」
少し間。
「よく見ています」
そして。
初めて。
指先が士郎へ向いた。
何の予兆も無い。
殺気も無い。
敵意も無い。
ただ。
静かだった。
「では」
少し間。
「あなたは何処まで壊れますか」
その瞬間。
士郎の右腕が崩れた。
音も無い。
骨。
筋肉。
血。
砂みたいに砕ける。
指先から。
肘まで。
肩まで。
崩壊が走る。
普通なら絶叫する。
激痛。
死に近い感覚。
身体の一部が失われる恐怖。
全て。
一瞬で押し寄せる。
だが。
次の瞬間。
戻る。
完全に。
傷一つ無く。
何事も無かったみたいに。
沈黙。
笑うものが固まる。
『……え?』
士郎が右手を握る。
開く。
少し間。
そして。
少し笑った。
目が細い。
「効くな」
短く。
「で?」
少し間。
「次は?」
笑うものが止まる。
『は?』
『そこなの!?』
翔の煙が止まる。
静かな目。
小さい声。
「……精神潰しか」
最初の観測者が初めて少し止まった。
ほんの少しだけ。
目が細くなる。
「理解が早いですね」
次の瞬間。
翔の肩が崩れる。
肋骨が砕ける。
肺が潰れる。
心臓が止まる。
死ぬ。
その感覚だけが一瞬で身体を走る。
終わりを迎える感覚。
生命が途切れる感覚。
だが。
次の瞬間。
戻る。
完全に。
何事も無かったように。
翔が煙を吐く。
少し間。
「気持ち悪ぃな」
静かな声。
「でも」
目が細い。
「その程度か」
本音だった。
死は感じた。
苦痛もあった。
だが。
折れるほどではない。
笑うものが乾いた顔になる。
『いや何なんだお前ら!?』
『普通なら壊れるだろ!?』
『何回死んだ感覚味わわせる気なんだよ!?』
普通なら壊れる。
何度も死ぬ感覚。
終われない激痛。
精神から壊れる。
心から折れる。
そういう類の力だった。
なのに。
士郎は笑っていた。
翔は煙を吐いていた。
最初の観測者が止まる。
長い沈黙。
静かな瞳。
ほんの少しだけ。
理解できないものを見る目だった。




