第二部 第208話 壊れない
石床が崩れていた。
士郎の拳。
翔の連撃。
普通なら。
何度死んでいてもおかしくない。
だが。
相手は立っている。
少し位置を違えながら。
何事も無かったように。
笑うものが顔を引き攣らせた。
『いやもう意味分かんねぇって!!』
崩れた床を見る。
最初の観測者を見る。
乾いた声。
『絶対死んでたろ今!?』
『首折れてたよな!?』
『胸も潰れてたよな!?』
最初の観測者は少し考えるようだった。
静かな目。
小さい声。
「死んでいます」
沈黙。
笑うものが止まる。
『え?』
少し間。
『死んでるの!?』
最初の観測者は自分の腕を見る。
静かな声。
「壊れます」
少し間。
「死にます」
ほんの少しだけ。
目を伏せる。
「ですが」
静かな声。
「残りません」
士郎が少し笑った。
口元だけ。
「最高だな」
次の瞬間。
床が砕ける。
三撃目。
真正面。
拳。
蹴り。
肘。
暴力の塊みたいな連撃。
空間ごと潰す。
崩れる石床。
轟音。
最初の観測者の身体が沈む。
肩が砕ける。
胸が潰れる。
首が折れる。
血が飛ぶ。
普通なら終わる。
間違いなく終わる。
だが。
次の瞬間。
何も無かった。
傷一つ無い。
血も無い。
砕けた痕跡も無い。
最初から壊れていなかったみたいに。
そこに立っていた。
翔の煙が止まる。
静かな目。
少し間。
「……死ぬな」
短く。
「でも死なねぇ」
その言葉が一番近かった。
死は起きている。
だが。
終わらない。
セレナが小さく目を細めていた。
静かな声。
「違います」
少し間。
「壊れています」
最初の観測者を見る。
「でも」
ほんの少しだけ目を細める。
「壊れた結果だけが残らない」
笑うものが止まる。
『……は?』
セレナは静かな声のまま続けた。
「壊れる過程はあります」
少し間。
「でも」
最初の観測者を見る。
「壊れ終わりません」
沈黙。
傷は存在する。
死も存在する。
だが。
その終着点だけが存在しない。
そんな異常だった。
翔が煙を吐く。
少し間。
静かな声。
「結果否定か」
沈黙。
最初の観測者が初めて止まった。
ほんの少しだけ。
目が細くなる。
小さい声。
「……よく見ていますね」
初めてだった。
観測者の方が。
誰かを評価したのは。
士郎が笑う。
退屈そうだった目が。
久しぶりに細かった。
「いいな」
少し間。
「本当に壊れねぇ」
次の瞬間。
床が砕けた。
轟音。
士郎の拳が、また空間を裂く。




