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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第二部『魔王と死神』第七章 『怪物達編』
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第二部 第204話 誰も居ない場所


白の向こうへ足を踏み入れた瞬間だった。


空気が変わる。


圧ではない。


殺気でもない。


もっと曖昧で。


気味の悪い違和感。


音が沈んでいた。


足音が響かない。


息遣いすら遠い。


服が擦れる音も。


煙が流れる音も。


何も聞こえない。


世界そのものが。


静かすぎた。


笑うものが嫌そうに顔をしかめる。


『……何ここ』


周囲を見回す。


白い訳ではない。


暗い訳でもない。


色そのものが曖昧だった。


空間だけがある。


果てが見えない。


なのに。


閉塞感だけがある。


肩を抱くように身を縮める。


『嫌な気配すら無いんだけど』


乾いた笑いが漏れる。


『逆に怖ぇよ』


何か居る方がまだ分かる。


敵意がある方がまだ安心できる。


ここには何も無い。


だから不気味だった。


翔が煙を吐いた。


歩きながら視線だけを動かす。


何も見えない。


気配も無い。


流れも。


意思も。


認識に引っ掛かるものが。


何一つ存在しなかった。


それが逆に異常だった。


少し間。


小さく息を吐く。


「……見えねぇ」


短い沈黙。


「何も」


翔ですら掴めない。


今までなら。


どんな存在にも繋がりがあった。


意思があった。


流れがあった。


だがここには無い。


まるで。


最初から何も存在していないみたいだった。


セレナも静かに周囲を見ていた。


その瞳には。


ほんの少しだけ戸惑いがある。


長い時間。


無数の世界を見てきた。


管理の裏側も。


崩壊も。


虚無界すら知っている。


なのに。


ここだけは違った。


小さい声が落ちる。


「……初めてです」


少し間。


「こんな場所」


世界ではない。


管理領域でもない。


虚無界でもない。


何にも属していない。


そんな感覚だった。


士郎だけが変わらない。


退屈そうに周囲を一瞥する。


興味なさそうに前へ進む。


数歩。


ふと。


足が止まった。


沈黙。


何もない空間。


そのはずだった。


だが。


よく見ると違う。


地面がある。


いや。


最初からあった。


ただ。


認識できていなかった。


古い石。


白でも黒でもない。


時間だけが削ったような色。


ひび割れた巨大な床。


果ての見えない石の大地が。


静かに広がっている。


気付いた瞬間。


周囲の景色まで変わった。


何も無いと思っていた空間に。


最初から存在していた輪郭が浮かび上がる。


笑うものが止まる。


『……今見えたんだけど?』


『最初からあったよな?』


誰も答えない。


答えられない。


全員同じだった。


見えていなかった。


さらに奥。


そこだけ。


ぽつりと異物みたいに存在していた。


席。


巨大な椅子。


玉座にも見える。


だが。


妙に静かだった。


豪華さは無い。


権威も無い。


飾りも無い。


ただ古い。


あまりにも古い。


長い時間。


忘れ去られていたみたいだった。


世界管理領域より古い。


観測者達より古い。


そんな錯覚すら覚える。


翔の煙が止まる。


ほんの少しだけ目が細くなる。


沈黙。


それから静かな声。


「……居たな」


笑うものが止まる。


『え?』


翔は玉座を見ていた。


少し間。


「今は居ない」


だが。


居た。


確かに。


痕跡だけが残っている。


そんな感覚だった。


士郎の口元が。


少しだけ歪む。


退屈そうだった目が。


初めて少しだけ細くなる。


「じゃあ来るだろ」


静かな空間の奥。


返事はない。


気配もない。


何も現れない。


なのに。


誰も居ないはずの玉座だけが。


妙にこちらを見ている気がした。


まるで。


ずっと前から。


ここへ辿り着くのを待っていたみたいに。

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