第二部 第200話 白の果て
崩壊は、まだ静かに続いていた。
世界管理領域。
白い空間そのものが役目を終え。
少しずつ崩れていく。
遠くで白い壁が光になって消える。
その向こうには。
今まで閉ざされていた空間が広がり始めていた。
管理も。
命令も。
監視も。
もう無い。
ただ。
無数の結晶世界だけが静かに漂っている。
生まれかけた世界。
壊れかけた世界。
始まりを待つ世界。
終わりを迎えた世界。
全て。
誰にも管理されないまま存在していた。
笑うものはその景色をしばらく眺めていた。
乾いた笑みを浮かべる。
小さく肩をすくめた。
『……何か実感ねぇな』
少し間。
『自由になりましたって言われてもさ』
崩れていく白を見る。
『急に人生変わる訳でもないし』
本音だった。
ずっと追われていた。
ずっと管理されていた。
それが終わった。
だが。
明日から何かが変わる訳でもない。
自由とは案外そんなものだった。
士郎は興味なさそうだった。
白の果てを見る。
鼻を鳴らす。
「生きたいなら生きりゃいい」
少し間。
「死にたきゃ死ね」
短く。
「好きにしろ」
笑うものが顔をしかめる。
『自由の説明が雑すぎるだろ』
『もうちょっとこう……あるだろ』
士郎は答えない。
本気でそれ以上の説明が必要だと思っていなかった。
ふと。
笑うものの視線がセレナへ向いた。
少し目を細める。
『そういやさ』
短い沈黙。
『お前、結局何者なの?』
空気が少し止まった。
セレナはすぐに答えなかった。
崩れていく白を見る。
漂う世界群を見る。
静かな瞳。
やがて。
小さく口を開いた。
「……分かりません」
笑うものが止まる。
『は?』
セレナの声は静かだった。
「少なくとも」
少し間。
「観測者ではありません」
白を見る。
小さい声。
「でも」
ほんの少し目を伏せる。
「ずっと見ていました」
笑うものが眉を寄せる。
『何を?』
セレナの目が士郎へ向いた。
ほんの少しだけ。
揺れる。
「壊れていく世界を」
少し間。
「壊していく人を」
沈黙。
士郎は興味なさそうだった。
「で?」
セレナは少し黙る。
言葉を探すように。
やがて。
本当に小さく息を吐いた。
「……だから」
少し間。
「側にいます」
誰も何も言わなかった。
理由としては曖昧だった。
説明としては足りなかった。
それでも。
セレナにとっては十分だった。
白い管理領域は静かに崩れている。
管理も。
命令も。
監視も。
もう無い。
無数の世界だけが。
ただ漂っていた。
士郎がつまらなそうに鼻を鳴らす。
「終わったなら行くぞ」
翔が煙を吐く。
崩れた白の向こうを見る。
少し間。
静かな声。
「これで終わりなら楽なんだがな」
笑うものが嫌そうに顔をしかめる。
『……最後まで縁起悪いな、お前』
誰も笑わない。
ただ。
崩れた白の向こうに。
まだ続きがあることだけは分かっていた。
第二部 第六章 世界管理崩壊編 完




