第42話 魔女と怪物
王都中央広場。
災厄級魔獣が咆哮する。
轟音。
衝撃波だけで周囲の建物が崩れ落ちた。
兵士たちは近づけない。
いや。
近づけば死ぬ。
完全に別次元の戦いだった。
◇
黒狼――西園寺士郎。
灰の魔女――エレノア。
二人だけが、災厄級魔獣の前へ立っている。
魔獣の無数の赤眼が士郎を睨む。
本能で理解していた。
危険。
目の前の男は危険すぎる。
士郎は笑った。
「逃げるな」
次の瞬間。
士郎が踏み込む。
轟音。
拳。
災厄級魔獣の顔面へ直撃。
外殻が砕け、巨体が後退る。
だが
魔獣はまだ倒れない。
異形腕が一斉に伸びる。
士郎を串刺しにしようとする。
その時。
空間が灰色に染まった。
エレノアの魔法。
異形腕が途中で停止する。
いや。
空間ごと凍結されていた。
兵士たちが絶句する。
「空間を……止めた……?」
エレノアは退屈そうに呟く。
「うるさいのよ」
そして。
指を鳴らす。
瞬間。
異形腕が全部、捻じ切れた。
血飛沫。
魔獣が絶叫する。
◇
だが
士郎は止まらない。
エレノアの拘束。
その一瞬を利用して、真正面から突っ込む。
拳。
蹴り。
肘打ち。
人体破壊術。
巨体へ叩き込む。
災厄級魔獣が吹き飛ぶ。
建物を貫通しながら転がった。
兵士たちは呆然としていた。
二人ともおかしい。
強さの次元が違う。
◇
リゼはそんな士郎を見ていた。
怖い。
士郎が。
戦えば戦うほど、嬉しそうになる。
今の顔
北方戦線の時より危ない。
その時。
エレノアが士郎を見る。
黒い靄。
士郎の身体から漏れる異常な気配。
エレノアの赤い瞳が細くなる。
「やっぱり濃いわね」
士郎が振り向く。
「何がだ」
エレノアは微笑む。
「魔王因子」
沈黙。
リゼが顔をしかめる。
「魔王……因子?」
エレノアは静かに言う。
「世界を壊す資格よ」
その瞬間。
空気が変わった。
兵士たちも息を呑む。
だが
士郎は興味なさそうだった。
「知らんな」
エレノアが笑う。
「でしょうね」
その反応が面白かった。
普通なら恐怖する。
だがこの男は違う。
“世界を滅ぼせる”と言われても、何も変わらない。
◇
その時。
災厄級魔獣が再び立ち上がる。
傷だらけ。
だが。
まだ生きている。
王都の兵士たちが絶望する。
「まだ動くのかよ……!」
エレノアは少し驚いた顔をした。
「へぇ」
士郎は笑った。
「しぶといな」
魔獣が咆哮する。
すると。
王都地下から無数の魔力反応。
地面が揺れる。
兵士たちが青ざめる。
「ま、まだいるのか!?」
次の瞬間。
地面を突き破り、大量の魔獣が現れた。
王都中が悲鳴に包まれる。
だが
士郎は笑う。
エレノアも笑う。
そして。
二人は同時に前へ出た。
その姿を見て。
兵士たちは思ってしまう。
今この王都で、一番危険なのは。
魔獣じゃない。
この二人だと。




