第41話 災厄級
王都中央広場。
轟音と共に地面が崩壊する。
石畳が吹き飛び、巨大な黒い影が姿を現した。
全長三十メートル級。
黒鉄のような外殻。
無数の赤い眼。
背中から生えた異形の腕。
そして。
周囲へ撒き散らされる濃密な魔力。
兵士たちの顔から血の気が消えた。
「な、なんだあれ……」
「災厄級……!」
王都全体が恐慌状態になる。
普通の魔獣じゃない。
国家崩壊級。
◇
魔獣が咆哮した。
衝撃波。
周囲の建物が吹き飛ぶ。
兵士たちが地面へ叩きつけられる。
悲鳴。
混乱。
だが。
士郎だけは静かだった。
むしろ。
笑っている。
「いい」
エレノアが横目で見る。
「本当に楽しそうね」
「強い」
短い返答。
だが本心だった。
あの怪物
今まで戦った誰より危険。
殺されるかもしれない。
その感覚が、身体を熱くする。
◇
次の瞬間。
災厄級魔獣が腕を振るった。
轟音。
巨大な衝撃波が街を裂く。
士郎が前へ出る。
拳。
激突。
衝撃波が砕け散る。
だが
士郎の足元の地面が陥没した。
重い。
ゼクト以上。
士郎の口元が歪む。
「最高だ」
その瞬間。
災厄級魔獣が突進する。
巨体とは思えない速度。
兵士たちが絶叫する。
「逃げろぉぉぉ!!」
だが
士郎は逃げない。
真正面から踏み込む。
轟音。
拳が魔獣の顔面へ直撃。
外殻が砕ける。
しかし。
止まらない。
魔獣の腕が士郎を吹き飛ばした。
建物へ激突。
石壁が崩壊する。
リゼが悲鳴を上げる。
「士郎!!」
煙。
次の瞬間。
瓦礫の中から士郎が立ち上がる。
口元から血。
それでも。
笑っていた。
「……いいな」
兵士たちの顔が引きつる。
完全に狂っている。
◇
エレノアはそんな士郎を見て、小さく笑った。
「やっぱり面白い」
そして。
前へ出る。
灰色の魔法陣が空を埋め尽くした。
王都全域規模。
空気が震える。
兵士たちが絶句する。
「ま、魔法陣が……」
「数が多すぎる……!」
エレノアが静かに指を向ける。
「崩れなさい」
瞬間。
空間そのものが歪んだ。
災厄級魔獣の巨体が捻じ曲がる。
骨が軋む。
外殻が砕ける。
だが
魔獣は咆哮しながら耐えた。
エレノアの目が細くなる。
「へぇ」
今の魔法で潰れない。
それだけで異常だった。
◇
その時。
士郎が再び突っ込む。
黒いコートが翻る。
エレノアの超魔術。
その拘束の隙を、士郎は見逃さない。
拳。
ドゴォォォォン!!!
災厄級魔獣の顔面が陥没する。
さらに。
肘打ち。
膝蹴り。
連撃。
巨体が揺れる。
兵士たちは呆然としていた。
灰の魔女が拘束し。
黒狼が殴り潰す。
最悪の連携。
◇
魔獣が暴走する。
背中の異形腕が一斉に伸びた。
士郎とエレノアへ襲いかかる。
だが
士郎は腕を掴み、引き千切った。
血飛沫。
エレノアは空間ごと切断する。
一瞬。
災厄級魔獣が怯んだ。
その時。
士郎の身体から、黒い靄が漏れる。
今までより濃い。
エレノアの赤い瞳が細くなる。
「やっぱり……」
確信。
この男の中には、“何か”がいる。
そして。
災厄級魔獣も、本能でそれを感じ取っていた。
魔獣が初めて後退る。
恐怖していた。
黒狼を。
士郎はゆっくり笑う。
「逃げるな」
その姿を見て
王都の兵士たちは理解してしまう。
目の前にいる男は。
英雄なんかじゃない。
もっと危険な何かだと。




