第二部 第190話 接続
守護個体が動いた。
速い。
違う。
距離そのものが消えていた。
白い巨腕が振り下ろされる。
空間。
法則。
存在。
全てを削除しようとする暴力。
轟音。
重力。
士郎の拳だった。
真正面。
白い腕ごと。
空間ごと。
叩き潰す。
衝撃が世界管理領域へ走る。
無数の結晶が揺れる。
生まれかけた世界が震える。
守護個体。
初めて。
後退した。
だが。
崩れない。
法則が動く。
結晶群が淡く発光する。
削除された空間が戻る。
壊れた距離が繋がる。
失われた構造が修復される。
守護個体の身体も。
静かに再生していく。
士郎が少し笑った。
目が細い。
「しぶてぇな」
今までの敵とは違う。
殴れば壊れる。
だが壊れたままにならない。
その瞬間だった。
守護個体達が一斉に動く。
結晶群が震える。
違う。
世界そのものが使われた。
生まれかけた世界。
壊れかけた世界。
不要世界。
法則。
因果。
存在。
全てが守護個体へ流れ込んでいく。
巨大な管理機構。
世界工場そのものが守護個体を支えていた。
笑うものが固まる。
『……あ』
少し間。
顔が引き攣る。
『何かめっちゃ嫌な繋がり方してない!?』
『あれ世界から直接補給してるじゃん!?』
セレナの目が止まる。
静かな声。
「守護個体は世界管理領域と接続されています」
短く。
「世界維持」
「管理」
「修復」
「再構築」
少し間。
「全て共有です」
つまり。
守護個体を壊すことは。
世界管理領域そのものと戦うことを意味していた。
翔が煙を吐く。
静かな目。
守護個体を見ていない。
もっと奥。
さらに深い場所。
世界。
法則。
管理。
生成。
修復。
無数の流れ。
膨大な接続。
守護個体は末端だった。
本体は別にある。
翔はそれを見ていた。
少し間。
低い声。
「……面倒だな」
珍しく。
本当に面倒そうだった。
拳が僅かに握られる。
霧流拳。
暗殺拳。
人を殺す拳ではない。
繋がりを断つ拳。
流れを殺す拳。
次の瞬間。
音が消えた。
守護個体。
結晶群。
世界管理領域。
その全てを繋いでいた流れだけが。
唐突に。
切れる。
何の前触れもなく。
何の抵抗もなく。
巨大な管理機構の神経が断裂した。
結晶群の光が乱れる。
法則が揺らぐ。
世界の流れが止まる。
守護個体達が。
初めて。
大きく揺れた。
圧が落ちる。
法則が乱れる。
修復が止まる。
頭の奥へ。
初めて。
焦りが流れ込む。
『接続異常』
『守護権限低下』
『管理同期消失』
『修復機構停止』
『世界供給停止』
『原因不明』
声が乱れる。
世界管理領域そのものが悲鳴を上げていた。
翔が煙を吐く。
短く。
「切れた」
それだけ。
士郎が笑う。
獣のように。
待っていた。
この瞬間を。
踏み込む。
轟音。
重力。
世界管理領域全体が沈む。
守護個体が迎撃する。
だが遅い。
もう修復はない。
もう支援もない。
ただの個体になった。
士郎の拳が振り抜かれる。
真正面。
守護個体の顔面へ。
轟音。
白い巨体が歪む。
法則が砕ける。
空間が裂ける。
世界ごと。
まとめて吹き飛んだ。
守護個体が宙を舞う。
結晶群を貫く。
無数の世界を揺らしながら。
遠くへ吹き飛ぶ。
そして。
初めて。
砕けた。
白い身体に亀裂が走る。
法則が崩れる。
存在が壊れる。
守護個体。
世界管理領域最上位防衛機構。
その一体が。
初めて破壊された。
沈黙。
世界管理領域全体が止まる。
笑うものが固まる。
『……あ』
短い。
『壊れた』
さらに間。
『今、本当に壊れた』
誰も否定できなかった。
外界が作った世界工場。
その守護者は。
ついに破壊されたのだから。




