第二部 第188話 世界管理領域
沈黙だった。
最高位代理個体。
外界権限を持つ“本物”。
それが。
何の意味もなく消えた。
白い空間は静まり返っている。
違う。
止まっていた。
観測。
法則。
迎撃。
全部。
動けなくなっていた。
頭の奥へ。
ざわめきが流れ込む。
統率ではない。
恐怖。
混乱。
諦め。
『最高位代理個体消失』
『排除失敗』
『迎撃成功率消失』
『接触戦闘無意味』
声が重なる。
今まで絶対だった命令系統が崩れている。
『解析不能』
『危険度測定不能』
『怪物群停止不可』
『対処手段不存在』
沈黙。
長い沈黙。
そして。
初めて。
外界側が結論を出した。
『進路変更』
『中心戦域放棄』
『世界管理領域接続』
前方。
閉じていた空間が。
ゆっくりと開いていく。
違う。
門ではない。
逃げ道だった。
怪物を止められない。
だから別の場所へ誘導する。
それが外界の出した答えだった。
道の奥。
今までとは違う圧が流れてくる。
強さではない。
規模だった。
存在感だった。
白い空間そのものが、そこだけ深く沈んでいる。
笑うものが顔を引き攣らせる。
『……あー』
少し間。
前を見る。
『もう直接戦うの諦めたんだ』
短い。
『“あっち行ってください”じゃん』
セレナは否定しなかった。
静かな声。
「合理的判断です」
少し間。
前を見る。
「中心防衛個体ですら無意味」
短く。
「なら近くで壊されない方を選ぶ」
それだけだった。
士郎は興味なさそうに前を見る。
少し笑う。
「で?」
短い。
「次は何だ」
セレナが答える。
「世界管理領域」
僅かな沈黙。
「世界の生成」
「観測」
「介入」
「調整」
静かな声。
「外界文明の中枢です」
笑うものが止まる。
『……え?』
少し間。
顔が引き攣る。
『工場みたいなもん?』
セレナは小さく頷いた。
「近いです」
その瞳は奥を見ている。
「不要となった要素」
「失われた可能性」
「法則の残骸」
「不要世界」
短く。
「それらが集積され」
少し間。
「新たな世界になります」
笑うものが固まる。
『……は?』
短い。
『世界って作ってたの?』
セレナは静かに続ける。
「文明を維持するには資源が必要です」
「世界も同じです」
「世界は消費されます」
「壊れます」
「消滅します」
僅かな沈黙。
「だから補充します」
当たり前のような口調だった。
笑うものは何も言えない。
理解が追い付いていなかった。
士郎は鼻を鳴らす。
興味があるのはそこじゃない。
前を見る。
少し笑った。
「で?」
目が細い。
「守ってる奴、強ぇのか」
セレナは静かに頷く。
「守護個体が存在します」
短い沈黙。
「世界管理領域専属です」
翔が煙を吐く。
少し間。
静かな声。
「そろそろ飽きてくるぞ」
今までの敵を思い出しているのだろう。
執行者。
中心防衛個体。
最高位代理個体。
全て一方的だった。
士郎が笑う。
獰猛に。
「なら少しは楽しませろ」
二人が歩き出す。
その瞬間。
景色が変わった。
白い空間が終わる。
その先に広がっていたものは。
巨大だった。
果てが見えない。
無数の結晶。
巨大な球体。
砕けた世界の欠片。
生まれる世界。
育つ世界。
壊れる世界。
死んだ世界。
全てが静かに漂っている。
光の河のように。
銀河のように。
宇宙のように。
世界の海だった。
笑うものが見上げる。
言葉を失う。
セレナも黙っていた。
士郎と翔だけが前を見る。
その最奥。
世界の海の中心。
そこに。
他とは比較にならない巨大な気配が存在していた。
守っている。
監視している。
待っている。
そんな気配だった。
士郎の口元が僅かに歪む。
「やっとか」
翔が煙を吐く。
静かな目で最奥を見る。
「少しは期待する」
その瞬間。
世界管理領域の最深部で。
何かが目を開いた。




