第二部 第183話 総力戦
外界側は。
初めて後退した。
白い群れが崩れていく。
観測が死ぬ。
法則が砕ける。
執行者が止まる。
世界単位の圧を持っていたはずの存在達が、士郎と翔の前では意味を失っていた。
頭の奥へ、ざわめきが流れ込む。
今までの命令とは違う。
焦り。
恐怖。
混乱。
『前線崩壊』
『執行者損耗拡大』
『怪物群接触危険』
『戦域維持困難』
白い戦場全体が揺れていた。
観測網が乱れ、構造そのものが悲鳴を上げている。
笑うものが白を見る。
本気で引いていた。
『いや』
少し間。
『もう前線壊滅してるんだけど』
短い沈黙。
『戦争って普通こうじゃないよ!?』
セレナは崩れていく戦場を見つめていた。
静かな声。
「外界側の想定を超えています」
白を見る。
崩れる隊列。
退く空間。
揺れる観測。
「本来なら」
少し間。
「数と法則で押し潰せるはずでした」
士郎が鼻を鳴らす。
「雑魚集めて何が変わる」
踏み込む。
轟音。
重力が落ちた。
侵食と混ざった圧が白い戦場そのものを沈ませる。
距離が砕ける。
空間が歪む。
法則が耐え切れず崩壊する。
前線が。
まとめて吹き飛んだ。
白い群れが消える。
観測が途切れる。
そして――
白い空間の奥。
初めて。
"揃った"。
今までの群れとは違う。
数ではない。
圧だった。
巨大な白い影。
人型。
異形。
世界そのものを纏った存在。
十数体。
ただ存在しているだけで周囲の法則が安定している。
崩壊していた戦場が。
その周囲だけ修復されていく。
重力が戻る。
距離が固定される。
観測が安定する。
まるで世界そのものが彼らを中心に組み直されているようだった。
笑うものの顔が止まる。
『……あ』
少し間。
本気で嫌そうな顔。
『幹部出てきた』
セレナの瞳が僅かに揺れる。
小さな声。
「中心防衛個体」
さらに続ける。
「外界最高位です」
沈黙。
白い影達が一斉に視線を向けた。
その瞬間。
戦場全体が重くなる。
今までの執行者とは比較にならない。
世界そのものが敵意を持って見下ろしているような圧。
頭の奥へ。
今までより遥かに重い声が響いた。
『怪物群確認』
『侵食源確認』
『文明存続危険度・最上位』
少し間。
『殲滅を開始する』
轟音。
十数体の最高位存在が同時に動いた。
士郎が少し笑う。
目が細い。
獲物を見つけた獣のように。
「やっとマシなの来たか」
翔が煙を吐く。
静かな目で白い影達を見る。
「弱いと冷める」
それだけだった。
次の瞬間。
怪物と文明。
本当の総力戦が始まった。




