第二部 第182話 殲滅
外界側は止まらなかった。
白い空間の奥から、観測外者が現れる。執行者が現れる。法則を纏った異形が、次々と戦域へ流れ込んでくる。
数ではない。
密度だった。
一体一体が世界単位の圧を持ち、存在しているだけで空間の意味を塗り替えていく。上下。距離。時間。観測。その全てが重なり合い、士郎と翔を中心に白い戦場が構築されていった。
法則が降る。
拘束。
修正。
停止。
削除。
距離が歪み、観測が重なり、世界そのものが二人を押し潰そうとする。
笑うものが、初めて本気で顔を引き攣らせた。
『いや待って』
白を見る。
『これもう戦争じゃなくて終末なんだけど!?』
セレナの声は静かだった。
「外界側は本気です」
少しだけ間を置き、彼女は白い戦場を見据えた。
「文明防衛」
短く。
「総力迎撃です」
だが。
士郎と翔は止まらない。
士郎が踏み込んだ。
その瞬間、重力が落ちた。
轟音。
白い空間そのものが沈む。
押し寄せていた法則が、拘束が、修正が、停止が、削除が、真正面から圧し潰された。白い戦域に黒が走り、重力と侵食が混ざり合いながら、戦場そのものを塗り潰していく。
空間が軋む。
距離が崩れる。
観測外者達の隊列が、初めて乱れた。
頭の奥へ、無数の声が流れ込む。
『侵食拡大』
『構造維持困難』
『戦域崩壊警告』
『怪物群危険度更新』
士郎が、少しだけ笑った。
低く。
「脆ぇな」
同時に、翔が煙を吐いた。
その目は、迫る群れを見ていなかった。
違う。
敵ではない。
もっと奥。
繋がっているものを見ていた。
命令。観測。意思。判断。外界側の防衛機構を動かしている、無数の線。
翔はそれを見つけた。
「居るな」
静かな声。
右手が、ほんの少し動いた。
次の瞬間。
戦場が静まった。
白い群れの前列が崩れる。
中列が崩れる。
さらに後方まで、遅れて崩れた。
悲鳴もない。
抵抗もない。
敵意が消える。観測が死ぬ。法則が止まる。
まるで戦場そのものから、命だけを抜き取られたようだった。
笑うものが固まる。
『……え?』
少し間。
顔がさらに引き攣る。
『何今』
短く。
『雑に死にすぎじゃない!?』
翔は答えない。
ただ煙を吐き、崩れていく群れの奥を見る。
士郎も前を見ていた。
まだ数はいる。
まだ圧は残っている。
まだ外界側は諦めていない。
士郎が、わずかに笑う。
「終わってねぇだろ」
踏み込む。
轟音。
重力がさらに落ちた。
白い空間が黒く沈む。
外界側が、初めて後退した。




