第4話 B級冒険者
冒険者ギルドの空気が凍りついていた。
中央で向かい合う二人。
黒コートの男、西園寺士郎。
そして。
B級冒険者、ガルド。
巨体。
大剣。
無数の傷。
歴戦の戦士だった。
周囲の冒険者たちがざわつく。
「おいおい……」
「ガルドが本気だぞ」
「黒コートの兄ちゃん終わったな」
リゼだけは青ざめていた。
違う。
終わるのはたぶん――。
ガルドは士郎を見下ろしながら笑う。
「面白ぇ目してんな」
士郎は無言。
ただ観察していた。
重心。
筋肉。
呼吸。
弱くはない。
少なくとも、この世界で初めて“戦える人間”だった。
ガルドは大剣を抜く。
鈍い金属音。
周囲が慌てて距離を取った。
受付嬢が叫ぶ。
「ちょ、ちょっと待ってください!! ギルド内で――」
ガルドは笑う。
「安心しろ。殺しゃしねぇ」
士郎が小さく言う。
「そうか」
「?」
「なら、俺も手加減する」
沈黙。
次の瞬間。
ギルド内が爆笑に包まれた。
「ぶははは!!」
「あいつ何言ってんだ!?」
「ガルド相手に手加減!?」
だが。
ガルドだけは笑っていなかった。
士郎の目を見たからだ。
冗談を言ってる目じゃない。
本気。
だから少しだけ、背筋が寒くなる。
ガルドは大剣を構える。
「来いよ」
士郎は歩く。
ゆっくり。
構えもない。
隙だらけ。
ガルドが踏み込んだ。
速い。
巨体からは想像できない速度。
大剣が横薙ぎに振り抜かれる。
轟音。
空気が裂ける。
普通の人間なら胴体が消し飛ぶ一撃。
だが。
当たらない。
士郎は半歩だけ動いて避けていた。
ガルドの目が見開く。
「なっ――」
その瞬間。
士郎の拳がガルドの腹へめり込んだ。
ドゴォォォン!!
衝撃。
ガルドの巨体が浮く。
そのまま数メートル吹き飛び、机を粉砕しながら転がった。
ギルドが沈黙する。
誰も理解できなかった。
今、何が起きた?
ガルドが膝をつく。
腹を押さえながら。
「……ぐ、ぅ……!」
息ができない。
拳一発。
それだけで身体が痺れていた。
士郎は静かに立っている。
「遅いな」
空気が凍る。
冒険者たちの顔から笑みが消えた。
ガルドは立ち上がる。
額に汗。
だが眼は死んでいない。
「……面白ぇ」
殺気が増す。
本気。
冒険者たちがざわついた。
「お、おい」
「ガルドが本気になったぞ……!」
ガルドの身体が赤く光る。
魔力。
筋肉が膨れ上がる。
リゼが息を呑む。
「強化魔法……!」
ガルドが咆哮した。
床を砕きながら突進。
大剣が振り下ろされる。
今度は速い。
重い。
さっきとは別物。
だが。
士郎は避けない。
拳を振るう。
真正面から。
轟音。
大剣が弾き飛ばされた。
ガルドの目が見開かれる。
「は……?」
士郎はそのまま懐へ潜り込む。
肘打ち。
ガルドの顎が跳ね上がる。
続けて膝蹴り。
巨体がくの字に折れた。
最後。
掌底。
ドゴォォォン!!
ガルドの身体が吹き飛ぶ。
壁へ激突。
ギルドの壁が砕けた。
静寂。
誰も動けない。
B級冒険者。
街でも有名な実力者。
それが、一方的に叩き潰された。
士郎はガルドを見下ろす。
「終わりか」
ガルドは壁にもたれながら笑った。
血を吐きつつ。
「……はは」
士郎の目が細くなる。
「何がおかしい」
「いや……」
ガルドは笑う。
「久しぶりだ。こんなバケモン見たの」
ギルド内がざわつく。
“化け物”。
その言葉に、誰も反論できなかった。
ガルドは立ち上がろうとして、諦めた。
「降参だ」
沈黙。
そして。
ギルドが爆発した。
「うそだろ!?」
「ガルドが負けた!?」
「しかも素手!?」
受付嬢は完全に固まっている。
リゼだけは頭を抱えていた。
「やっぱりこうなるぅ……」
士郎は周囲を見る。
騒ぎ。
恐怖。
視線。
慣れている。
前の世界でも同じだった。
強すぎる者は理解されない。
士郎はガルドへ聞く。
「この街で一番強いのはお前か」
ガルドは苦笑する。
「んなわけあるか」
「誰だ」
ガルドの顔が少し真面目になる。
「A級冒険者レオン」
「強いのか」
「ああ。少なくとも俺よりは遥かにな」
士郎は静かに笑った。
その笑みに、冒険者たちの背筋が寒くなる。
ガルドは理解してしまった。
この男。
“強い奴を探してる”。
まるで獣みたいに。
その時。
ギルドの扉が開いた。
重い足音。
空気が変わる。
冒険者たちがざわついた。
「……来た」
「レオンだ」




