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最強の殺し屋、異世界で魔王になる  作者: 竜堂さくら
第三章 『魔女と死神編』

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第39話 灰の魔女

北方戦線終結から二週間。


王国は勝利に沸いていた。


魔族軍幹部“血刃のゼクト”討伐。


ヴァルガ砦防衛成功。


崩壊寸前だった北方戦線を立て直した英雄。


黒狼。


その名は、今や国中へ広がっていた。


だが。


士郎本人は、そんなことに興味がなかった。



王都ヴァルディア。


石畳の大通り。


人々がざわつく。


「あれが黒狼……」


「本当にデカいな……」


「S級を素手で……」


視線。


恐怖。


畏怖。


士郎は気にしない。


黒いコートを羽織り、静かに街を歩く。


隣ではリゼがため息を吐いていた。


「完全に有名人だね……」


「そうか」


「興味なさそう」


実際、興味がなかった。


強い敵がいない場所など退屈だ。


王都へ来てから。


士郎はずっと機嫌が悪かった。



その時だった。


通りの空気が変わる。


ざわめきが止まる。


人々が自然と道を開けた。


一人の女。


灰色のローブ。


長い銀髪。


赤い瞳。


異様な美しさ。


そして

底知れない魔力。


周囲の空気そのものが歪んでいる。


リゼの顔が強張る。


「……え」


本能が警鐘を鳴らしていた。


危険。


目の前の女は危険。


女はゆっくり士郎の前で立ち止まる。


赤い瞳が士郎を見上げた。


数秒。


沈黙。


そして。


女は笑った。


妖艶に。


「やっと会えた」


士郎の目が細くなる。


強い。


今まで会った誰より。


異質。


女は静かに名乗った。


「エレノア」


その瞬間。


周囲の人々の顔色が変わった。


「灰の魔女……!」


「うそだろ……!」


世界最悪の魔術師。


不老の大魔女。


国家すら滅ぼせる災厄。


その存在が。


黒狼の前に立っていた。



リゼが士郎の腕を掴む。


「士郎……」


危険だ。


本能で分かる。


だが。


士郎は笑っていた。


ほんの少し。


エレノアも楽しそうに目を細める。


「あなた、面白いわね」


「そうか」


「普通の人間なら、私の前で立っていられない」


士郎は静かに聞く。


「お前、強いのか?」


リゼが頭を抱えた。


「初対面でそれ!?」


だが。


エレノアは笑う。


本当に楽しそうに。


「ええ。多分、かなり」


その瞬間。


士郎の口元が歪む。


獰猛に。


空気が張り詰める。


周囲の人々は息を呑んでいた。


二人とも危険すぎる。


まるで災害同士が向かい合っているみたいだった。



エレノアは士郎を見つめる。


赤い瞳。


その奥に、異様な熱が宿っていた。


「あなた、自分が何なのか分かってないでしょう?」


士郎が眉をひそめる。


「なんの話だ」


エレノアは微笑む。


「いいわ。まだ」


意味深な言葉。


だが

士郎は気にしない。


重要なのはそこじゃない。


この女は強い。


それだけ。


エレノアは士郎へ顔を近づける。


リゼが慌てる。


「ち、近い近い!!」


エレノアは気にせず囁いた。


「あなたの中、とても綺麗に壊れてる」


沈黙。


士郎の目が細くなる。


その瞬間。


空気が揺れた。


黒い殺気。


周囲の人々が震える。


だが

エレノアは笑ったまま。


むしろ嬉しそうだった。


「やっぱり素敵」


リゼは完全に引いていた。


「なんなのこの人ぉ……」



その時。


遠くで爆発音が響いた。


王都西区。


黒煙が上がる。


悲鳴。


人々が騒ぎ始める。


兵士たちが叫ぶ。


「魔獣だ!!」


「西区に魔獣が出たぞ!!」


街が混乱する。


だが。


士郎とエレノアだけは静かだった。


士郎は少し笑う。


「退屈しなくて済みそうだ」


エレノアも笑う。


「ええ。行きましょうか」


黒狼。


灰の魔女。


王都最悪の二人が、同時に動き出した。

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