第37話 血刃、散る
翌日。
ヴァルガ砦。
空気は異様だった。
魔族軍補給基地壊滅。
それは戦況を大きく変えていた。
魔族軍は補給不足で動きが鈍り始めている。
対して人類軍の士気は上がっていた。
理由は一つ。
黒狼。
西園寺士郎。
たった一人の存在。
兵士たちは口々に噂する。
「黒狼が敵基地を潰したらしい……」
「しかも単独だぞ」
「本当に人間か……?」
恐怖と熱狂。
両方が混ざっていた。
だが
士郎本人は静かだった。
砦外壁に座り、遠くの魔族軍陣地を見ている。
その目は獲物を探す獣みたいだった。
◇
その時。
戦場へ角笛が響く。
魔族軍。
総進軍。
兵士たちが慌てる。
「敵軍接近!!」
「総員戦闘配置!!」
アレスが剣を抜く。
「来たか……!」
だが
何かがおかしい。
魔族軍の中央。
道が開いていく。
そして。
一人の男が前へ出た。
血刃のゼクト。
赤黒い鎧は砕けている。
全身傷だらけ。
それでも。
笑っていた。
ゼクトは魔剣を肩へ担ぎ、叫ぶ。
「黒狼ォォォォ!!」
戦場全体へ響く咆哮。
兵士たちが震える。
士郎はゆっくり立ち上がった。
そして。
笑う。
「来たか」
次の瞬間。
士郎が城壁から飛び降りた。
轟音。
ゼクトも地面を蹴る。
二人の怪物が、戦場中央で激突した。
◇
拳。
魔剣。
衝撃波。
大地が裂ける。
兵士たちは近づけない。
いや。
近づけば死ぬ。
ゼクトが笑う。
「今日で決着だ!!」
士郎の拳が顔面へ突き刺さる。
ゼクトが吹き飛ぶ。
だが。
空中で体勢を変え、黒刃を放つ。
士郎は拳で粉砕。
そのまま踏み込む。
轟音。
ゼクトの腹へ膝蹴り。
肋骨が砕ける。
血飛沫。
それでも。
ゼクトは笑っていた。
「素晴らしい!!」
完全に狂っている。
だが
士郎も同じだった。
強い。
死ねるかもしれない。
その感覚だけが、今の士郎を熱くしていた。
◇
戦場後方。
リゼは震えていた。
士郎の顔。
笑っている。
楽しそうに。
まるで。
殺し合いの中だけが、生きている実感を与えてくれるみたいに。
アレスが低く呟く。
「危険だな……」
「ゼクトが?」
グランが聞く。
アレスは首を振る。
「士郎の方だ」
グランは黙った。
否定できなかった。
◇
戦場中央。
ゼクトの魔力が爆発する。
赤黒い紋様。
全身強化。
周囲の地面が崩れる。
ゼクトは吠えた。
「来い、黒狼!!」
士郎も踏み込む。
轟音。
拳が激突。
ゼクトの魔剣が士郎の肩を裂く。
士郎の拳がゼクトの胸を砕く。
血。
骨。
破壊。
怪物同士の殴り合い。
そして。
士郎の全身から、黒い靄が漏れ始める。
今までより濃い。
ゼクトの目が見開かれる。
「やはりだ……!」
士郎は構わず拳を振るう。
ドゴォォォォン!!!
ゼクトの身体が地面へ叩きつけられる。
大地が陥没。
ゼクトは血を吐きながら笑った。
「……はは」
立ち上がる。
だが
脚が震えていた。
限界。
それでもゼクトは笑う。
「最高だったぞ、黒狼」
士郎は静かに見る。
ゼクトが魔剣を構える。
最後の一撃。
全魔力収束。
空が黒く染まる。
兵士たちが絶望する。
だが
士郎は前へ出た。
拳を握る。
ゼクトが叫ぶ。
「死ねェェェェェ!!」
黒滅崩刃。
最大出力。
超広域殲滅斬撃。
士郎が真正面から突っ込む。
轟音。
黒刃を拳で砕く。
突破。
そして。
ゼクトの眼前へ。
士郎が拳を叩き込んだ。
ドゴォォォォォォォン!!!
世界が揺れた。
ゼクトの胸部が陥没する。
血が噴き出す。
静寂。
ゼクトは数歩よろめいた。
そして。
笑う。
満足そうに。
「……見事だ」
赤い瞳が細くなる。
「貴様こそ……戦場最強だ」
次の瞬間。
ゼクトの身体が崩れ落ちた。
沈黙。
魔族軍幹部。
血刃のゼクト。
死亡。
戦場が静まり返る。
そして。
誰もが見ていた。
血まみれで立つ男。
黒狼。
西園寺士郎を。




