第36話 戦場最強
燃え盛る魔族軍補給基地。
炎。
黒煙。
崩れ落ちる砦。
その中心で。
西園寺士郎と血刃のゼクトが向かい合っていた。
周囲には無数の死体。
魔族兵たちは近づけない。
いや。
近づきたくなかった。
怪物同士の殺し合いに巻き込まれれば死ぬ。
本能で理解している。
◇
ゼクトは燃える基地を見渡し、笑った。
「やってくれる」
士郎は血を払う。
「脆い砦だった」
ゼクトが楽しそうに目を細める。
「本当に最高だな、貴様」
次の瞬間。
ゼクトが消えた。
轟音。
魔剣が士郎の首を狙う。
士郎は拳で弾いた。
衝撃波。
炎が吹き飛ぶ。
二人が同時に踏み込む。
拳。
魔剣。
激突。
周囲の地面が砕け散る。
◇
ヴァルガ砦。
兵士たちは遠くの爆音を聞いていた。
「まだ戦ってるのか……」
「黒狼とゼクト……」
誰も近づけない。
次元が違う。
アレスは城壁の上から炎を見つめていた。
その隣で、リゼは不安そうに呟く。
「士郎……」
嫌な予感がする。
今の士郎は危うい。
強い敵と戦うほど。
嬉しそうになる。
まるで。
死に近づくほど、生きている実感を得ているみたいに。
◇
補給基地跡地。
ゼクトの魔剣が士郎の脇腹を裂く。
血飛沫。
だが
士郎は笑っていた。
「いい」
ゼクトも笑う。
「狂っているな」
士郎は拳を叩き込む。
轟音。
ゼクトが吹き飛ぶ。
だが空中で体勢を立て直し、魔剣を振るう。
黒刃。
巨大斬撃。
士郎は真正面から突っ込んだ。
拳。
黒刃粉砕。
ゼクトの眼前へ到達。
肘打ち。
顔面が歪む。
さらに膝蹴り。
肋骨粉砕。
ゼクトが血を吐きながら笑った。
「素晴らしい!!」
完全に本気だった。
魔力が膨れ上がる。
空気が震える。
士郎の全身からも、微かに黒い靄が漏れ始める。
本人は気づいていない。
だが
ゼクトは確信していた。
「やはりだ」
士郎が眉をひそめる。
「何がだ」
ゼクトは笑う。
「貴様は“こっち側”だ」
意味不明だった。
だが
その言葉を聞いた瞬間。
士郎の奥底で、何かがざわついた。
◇
ゼクトが魔剣を掲げる。
「見せてやる」
黒い魔力が空を覆う。
巨大魔法陣。
今までとは比較にならない密度。
基地跡地全体が軋む。
ゼクトが吠える。
「これが俺の全力だ!!」
魔剣が振り下ろされた。
黒滅崩刃。
超広域殲滅斬撃。
山ごと消し飛ばす破壊。
士郎は笑った。
獰猛に。
「最高だ」
拳を握る。
筋肉が軋む。
骨が悲鳴を上げる。
だが
身体は軽かった。
死ねるかもしれない。
その感覚が。
たまらなく心地いい。
そして。
士郎が踏み込む。
轟音。
黒い斬撃へ真正面から突撃。
血が飛ぶ。
皮膚が裂ける。
それでも止まらない。
ゼクトの目が見開かれる。
「来るか!!」
士郎が黒滅崩刃を突破する。
そして。
ゼクトの眼前へ到達。
拳。
ドゴォォォォォォン!!!
世界が揺れた。
ゼクトの身体が吹き飛ぶ。
山肌へ激突。
大地が陥没する。
静寂。
炎だけが揺れていた。
士郎は荒い息を吐く。
全身ボロボロ。
だが
笑っている。
その時。
崩れた岩の中から、ゼクトが立ち上がった。
全身血まみれ。
鎧は砕けている。
それでも。
まだ笑っていた。
「……いい」
赤い瞳が士郎を見つめる。
「やはり貴様こそ――」
その瞬間。
ゼクトの背後から、魔族軍の角笛が鳴り響いた。
緊急撤退命令。
ゼクトが舌打ちする。
「チッ……」
士郎が前へ出る。
「逃げるのか」
ゼクトは笑った。
「次で決着をつける」
黒い魔力が噴き上がる。
転移魔法。
姿が消える。
静寂。
士郎は血を拭う。
そして。
少しだけ笑った。
「次か」
その目は。
完全に戦場へ魅入られていた。




