第二部 第128話 壊れないもの
黒い海が裂けた。
音はない。
だが。
虚無界そのものが。
沈んだ。
墓標のように刺さる剣。
崩れた王冠。
沈んだ国。
全部が。
わずかに軋む。
墓底の王が立つ。
細い。
痩せている。
なのに。
重い。
身体に突き刺さる。
剣。
鎖。
杭。
壊そうとした跡。
終わらせようとした痕跡。
それでも。
まだ。
立っている。
『試す』
低い声。
壊れた響き。
『壊れるか』
少し間。
『沈むか』
次の瞬間。
消える。
違う。
沈んだ。
空間ごと。
落ちた。
士郎の目が細くなる。
遅い。
だが。
速い。
感覚が狂う。
虚無界そのものが。
相手に合わせて沈んでいる。
翔の煙が止まる。
短く。
「妙だな」
静かな声。
「距離が噛まない」
その瞬間。
黒い手が。
士郎の眼前にあった。
避ける。
遅れて。
世界が裂ける。
背後。
沈んだ塔。
城。
黒い海。
音もなく。
“沈んだ”。
消えた。
削られたように。
何も残らない。
士郎が止まる。
目だけ動く。
低く。
「……そういう手か」
翔が視線を動かす。
墓底の王。
動いていない。
なのに。
近い。
遠い。
沈んでいる。
位置が曖昧だった。
静かな声。
「終わりに引き込む」
少し間。
「面倒だ」
笑う者が珍しく笑わない。
『近付くと沈む』
静かな声。
『王達はそれで終わった』
士郎が鼻を鳴らす。
少し肩を回す。
低く息を吐く。
「なるほど」
静かな声。
「壊す前に終わらせる訳か」
墓底の王が。
わずかに首を傾けた。
『壊れないものは』
低い声。
『終わらせればいい』
少し間。
『沈めればいい』
沈黙。
翔が煙を吐く。
墓底の王を見る。
短く。
「効くか?」
士郎は少し考える。
そして。
静かに言う。
「……知らん」
少し間。
口元が僅かに動く。
「試すか」
黒い海が。
深く。
静かに軋んだ。




