第二部 第127話 墓底の王
虚無界が静まる。
黒い海。
奈落。
沈んだ王国。
墓標のように刺さる剣。
折れた王冠。
全部。
少しだけ沈んでいた。
奈落の底から。
それは立っている。
細い。
痩せている。
なのに。
王達より重い。
身体に突き刺さる。
剣。
鎖。
杭。
封じられていた痕跡。
壊された跡。
それでも。
沈み切らなかったもの。
墓底の王。
『王達は』
低い声。
壊れた響き。
『私を恐れた』
少し間。
空洞が。
二人へ向く。
『お前達は』
静かな声。
『どうだ』
沈黙。
士郎は動かない。
構えもしない。
ただ。
墓底の王を見る。
封じられた痕跡。
刺さった鎖。
壊そうとされた跡。
少し観察する。
低く息を吐く。
「……別に」
静かな声。
「怖くはねぇな」
短い。
事実だった。
墓底の王は止まる。
怒りもない。
揺れもしない。
ただ。
聞いていた。
士郎が少し目を細める。
「ただ」
少し間。
「面倒そうだ」
笑う者が少し肩を震わせる。
『君らしい』
翔が煙を吐く。
視線は墓底の王。
静かな声。
「恐れてる感じはない」
少し間。
「嫌ってる」
墓底の王が止まる。
黒い海が軋んだ。
『嫌う』
低い声。
『何故』
翔の煙が細く揺れる。
「終わりに近い」
静かな声。
少し間。
「沈む匂いがする」
短い。
「長く近くにいたくない」
沈黙。
墓底の王の身体に刺さった鎖が。
微かに鳴る。
やがて。
低い声。
『……そうか』
壊れた響き。
『王達も似た事を言った』
奈落が揺れる。
沈んだ墓標。
黒い海。
全部。
少し沈む。
『私は』
静かな声。
『終わらせる』
少し間。
『沈める』
空洞が士郎へ向く。
『壊れないものは』
低い声。
『久しい』
士郎は鼻を鳴らす。
「そうか」
少し間。
視線は逸らさない。
「で」
低い声。
「何する」
静寂。
墓底の王が。
ゆっくり。
身体を起こす。
刺さった剣。
鎖。
杭。
軋む。
虚無界そのものが。
少しだけ重くなる。
そして。
初めて。
空洞が。
わずかに揺れた。
笑ったようにも見えた。
『試す』
低い声。
『壊れるか』
少し間。
『沈むか』
黒い海が。
深く。
静かに裂けた。




