第34話 魔族軍幹部
ヴァルガ砦。
戦場は完全に崩壊していた。
炎。
悲鳴。
死体。
空には黒煙。
地上には血の川。
その中心で。
黒狼――西園寺士郎だけが前へ進んでいた。
◇
魔族軍は恐怖していた。
数百で囲んでも止まらない。
大型魔獣を投入しても殴り殺される。
ワイバーン部隊すら全滅。
兵士の一人が震える声で叫ぶ。
「ひ、怯むな!!」
次の瞬間。
その魔族兵の上半身が消し飛んだ。
轟音。
士郎の拳。
周囲の魔族たちが後退る。
完全に士気が崩壊していた。
士郎は血を払う。
「弱い」
その言葉に。
魔族兵たちの顔が引きつる。
◇
その時だった。
戦場奥。
巨大な魔力反応。
空気が変わる。
アレスの顔が険しくなる。
「来るぞ……!」
魔族軍が左右へ割れる。
そして
二つの影が現れた。
一人目。
黒い重鎧。
四メートル近い巨体。
巨大槌を背負った鬼人。
魔族軍幹部――剛鬼ガレス。
二人目。
白いローブ。
細身。
長い蒼髪。
周囲に無数の魔法陣を浮かべている。
魔族軍幹部――蒼氷のミレア。
兵士たちの顔から血の気が消える。
「幹部が……二人……!」
さらに。
その奥。
赤黒い鎧。
巨大な魔剣。
血刃のゼクト。
三幹部
同時出現。
絶望的戦力差。
◇
ゼクトが笑う。
「黒狼」
士郎の目が細くなる。
「増えたな」
ガレスが巨大槌を肩へ担ぐ。
「貴様が黒狼か」
ミレアは冷たい目で士郎を見る。
「……妙な気配」
士郎は笑った。
「全員強いのか?」
ゼクトが答える。
「ああ」
その瞬間。
士郎の口元が歪む。
獰猛に。
「最高だ」
アレスが叫ぶ。
「士郎!! 一人で相手をするな!!」
普通なら当然だった。
魔族軍幹部三人。
国家崩壊級。
だが
士郎は前へ出る。
止まらない。
戦場全体が静まり返る。
兵士たちは理解できない。
なぜあの男は笑っている?
◇
最初に動いたのはガレスだった。
巨大槌を振り下ろす。
轟音。
城壁が吹き飛ぶ。
だが。
士郎は真正面から拳を叩き込んだ。
激突。
衝撃波。
ガレスの目が見開かれる。
「なにィ!!」
士郎が踏み込む。
肘打ち。
巨体が揺れる。
さらに膝蹴り。
ガレスが吹き飛ぶ。
兵士たちが絶句した。
幹部級を
力で押している。
その瞬間。
ミレアの魔法陣が展開された。
無数の氷槍。
空を埋め尽くす。
「死になさい」
一斉発射。
だが
士郎は止まらない。
氷槍を殴り砕く。
蹴り砕く。
真正面から突破。
ミレアの目が細くなる。
「ありえない……」
次の瞬間。
士郎が眼前へ到達していた。
拳。
轟音。
ミレアの障壁が砕け散る。
そのまま吹き飛ばされた。
◇
戦場が凍りつく。
魔族軍幹部二人を
一人で押している。
ゼクトだけが笑っていた。
「素晴らしい!!」
完全に興奮していた。
士郎の身体から、微かに黒い靄が漏れる。
本人は気づいていない。
だが
ミレアの顔色が変わる。
「ゼクト……!」
「分かっている」
ガレスも立ち上がりながら唸る。
「あれは……」
普通じゃない。
本能が警鐘を鳴らしている。
目の前の人間の中に。
“別の何か”がいる。
◇
士郎は静かに拳を握る。
血。
死。
破壊。
戦場が熱い。
もっと壊したい。
もっと強い敵と殺し合いたい。
その衝動が膨れ上がる。
リゼは城壁から士郎を見ていた。
そして。
初めて本気で怖くなった。
今の士郎は。
本当に。
人間じゃなくなり始めている。




