第33話 黒狼無双
ヴァルガ砦右翼。
戦線は崩壊寸前だった。
魔族軍が雪崩れ込む。
大型魔獣が城門を叩き壊す。
兵士たちは疲弊しきっていた。
「押される!!」
「もう無理だ!!」
絶望。
誰もがそう思った。
その時。
黒い影が戦場へ飛び込んだ。
西園寺士郎。
黒狼。
◇
士郎は魔族軍の中央へ着地した。
轟音。
地面が陥没する。
魔族たちが一瞬動きを止めた。
本能。
危険。
目の前にいる男は危険だと理解してしまう。
士郎は静かに言う。
「数だけか」
次の瞬間。
地面を蹴った。
爆発音。
士郎が消える。
そして。
魔族兵の頭部が潰れた。
ドゴォォォン!!
さらに拳。
蹴り。
肘打ち。
魔族たちが次々吹き飛ぶ。
人体破壊術。
それを戦場規模で叩き込んでいた。
兵士たちは呆然と見ている。
速すぎる。
強すぎる。
一人で戦場そのものを押し返していた。
◇
大型魔獣オーガロード級。
三体。
同時突撃。
兵士たちが絶望する。
だが
士郎は止まらない。
一体目。
拳。
顔面粉砕。
二体目。
首を掴み、そのまま地面へ叩きつける。
轟音。
頭蓋骨陥没。
三体目。
巨大斧を振り下ろす。
士郎は避けない。
真正面から拳を叩き込む。
激突。
斧が砕けた。
そのまま
オーガロード級の胸部を貫通する。
静寂。
兵士たちの顔が引きつる。
「なんだよ……あれ……」
もはや人間じゃない。
災害。
◇
戦場中央。
ゼクトはその光景を見て笑っていた。
「素晴らしい!!」
周囲の魔族軍ですら恐怖している。
黒狼。
一人いるだけで戦場が変わる。
ゼクトは楽しそうに呟く。
「やはり貴様は、戦場の怪物だ」
◇
右翼戦線。
士郎は血まみれで歩いていた。
周囲には魔族の死体。
数十。
いや。
既に百を超えていた。
だが
まだ足りない。
もっと強い敵を。
もっと死を感じる戦いを。
身体の奥が飢えている。
その時。
空が暗くなる。
ワイバーン部隊。
十体以上。
兵士たちが絶叫する。
「飛行部隊だぁぁぁ!!」
炎の雨。
砦が燃える。
兵士たちが吹き飛ぶ。
だが
士郎は笑った。
「いい」
地面を蹴る。
轟音。
跳躍。
兵士たちが目を見開く。
士郎が空へ飛ぶ。
常識外れ。
ワイバーンへ到達。
拳。
頭部粉砕。
その死体を踏み台にさらに跳躍。
二体目。
翼を引き千切る。
三体目。
首を掴み、地面へ叩き落とす。
轟音。
兵士たちはもう声も出ない。
空中で。
飛竜を。
素手で虐殺している。
◇
その頃。
砦内部。
リゼは負傷兵を治療しながら震えていた。
周囲の兵士たちの会話が聞こえる。
「黒狼が右翼を押し返してる!」
「ワイバーン部隊壊滅!」
「一人で戦況変えてやがる!!」
歓声。
熱狂。
だが
リゼだけは笑えなかった。
士郎はどんどん壊れている。
戦えば戦うほど
嬉しそうになる。
それが怖かった。
◇
戦場。
最後のワイバーンを叩き潰し、士郎が着地する。
轟音。
その時。
周囲の魔族軍が、一斉に後退った。
恐怖していた。
黒狼を。
士郎は静かに見る。
「もう終わりか?」
魔族たちは震える。
その姿を見て
士郎は少しだけ失望した。
弱い。
足りない。
もっと。
もっと死に近い戦いが欲しい。
その瞬間。
遠くから濃密な殺気。
士郎の目が細くなる。
ゼクト。
再びこちらへ向かってきていた。
そして。
ゼクトの背後。
さらに二つ。
異常な気配が現れる。
魔族軍幹部。
増援だった。




