第32話 総攻撃開始
夜明け。
ヴァルガ砦。
空気は張り詰めていた。
兵士たちは城壁の上で武器を握る。
震える手。
乾いた喉。
誰もが分かっていた。
今日が地獄になると。
◇
その時。
魔族軍陣地から、重低音が響いた。
角笛。
総攻撃開始の合図。
次の瞬間。
地平線を埋め尽くす魔族軍が動き出した。
咆哮。
怒号。
数万規模の軍勢。
大地が揺れる。
兵士たちの顔が青ざめる。
「く、来るぞ……!」
「構えろ!!」
さらに
大型魔獣まで混ざっていた。
オーガ。
ワイバーン。
巨獣型魔物。
完全な殲滅戦。
アレスが剣を抜く。
「全軍迎撃!!」
砦全体が動き出した。
魔法砲撃。
矢の雨。
爆発。
戦争が始まる。
◇
だが
魔族軍は止まらない。
兵士が吹き飛ぶ。
城壁が揺れる。
悲鳴。
血。
地獄だった。
リゼも必死に魔法支援をしている。
「右側押されてる!!」
「回復班急いで!!」
だが
戦線は徐々に崩れ始めていた。
数が違いすぎる。
その時。
城壁へ巨大な影が飛び乗った。
大型魔族。
四メートル級。
兵士たちが絶叫する。
「突破された!!」
大型魔族が笑う。
「ニンゲン、ヨワイ」
巨大斧が振り下ろされる。
兵士たちが死を覚悟した。
だが
次の瞬間。
大型魔族の顔面が消し飛んだ。
轟音。
巨体が城壁から落下する。
沈黙。
黒いコートの男。
士郎。
兵士たちの顔が変わる。
「黒狼……!」
士郎は静かに言う。
「邪魔だ」
その瞬間。
さらに複数の魔族が城壁へ殺到する。
士郎が踏み込む。
拳。
蹴り。
肘。
人体破壊術。
魔族たちが次々吹き飛ぶ。
血飛沫。
骨の砕ける音。
兵士たちは呆然と見ていた。
一人で。
戦線を押し返している。
◇
戦場中央。
ゼクトは城壁上の士郎を見て笑っていた。
「いい」
その目は完全に獲物を見る目。
そして。
ゼクトが魔剣を掲げる。
魔力が膨れ上がる。
アレスの顔色が変わる。
「まずい!!」
次の瞬間。
巨大な黒刃が放たれた。
城壁ごと両断する超斬撃。
兵士たちが絶望する。
だが。
士郎が前へ出た。
拳を握る。
そして。
殴る。
轟音。
黒刃が砕け散る。
衝撃波で空が揺れた。
兵士たちが絶句する。
「また……拳で……」
ゼクトが笑う。
「そうでなくては!!」
次の瞬間。
ゼクトが突撃した。
城壁を飛び越える。
轟音。
士郎の前へ着地。
周囲の兵士たちが吹き飛ぶ。
二人の怪物。
再び激突。
拳と魔剣がぶつかる。
城壁が砕ける。
兵士たちは近づけない。
完全に別次元だった。
◇
その頃。
砦右翼。
人類軍は崩壊寸前だった。
大型魔獣が城門を破壊し始めている。
兵士たちが叫ぶ。
「も、持ちません!!」
グランが怒鳴る。
「踏ん張れぇぇぇ!!」
だが
限界だった。
その時。
轟音。
巨大な魔獣の頭部が吹き飛ぶ。
血の雨。
兵士たちが振り向く。
黒いコート。
士郎。
いつの間にかゼクトとの戦闘を抜け、こちらへ来ていた。
兵士たちが息を呑む。
速すぎる。
士郎は静かに周囲を見る。
崩れかけた戦線。
大量の魔族。
そして。
笑った。
「面白い」
次の瞬間。
士郎が魔族軍へ突っ込んだ。
その姿を見た兵士の一人が、震える声で呟く。
「……悪魔だ」




