第31話 ヴァルガ砦
北方戦線最大防衛拠点――ヴァルガ砦。
巨大な石造要塞。
この砦が落ちれば、人類側防衛線は崩壊する。
つまり。
北方戦線そのものが終わる。
◇
グランゼル要塞。
作戦会議室。
空気は重かった。
地図には、大量の赤印。
魔族軍。
総攻撃。
アレスが低く言う。
「ゼクトが動いた」
兵士たちの顔が険しくなる。
ゼクト。
今やその名だけで空気が凍る。
アレスは地図を指差す。
「敵の狙いはヴァルガ砦だ」
ヴァルガ砦。
北方戦線最後の壁。
そこが落ちれば、後方都市まで一直線。
幹部の一人が唸る。
「兵力差が厳しい……」
実際
人類側は押されていた。
連戦。
補給不足。
士気低下。
対して魔族軍は勢いがある。
その時。
士郎が口を開いた。
「砦を守ればいいんだな」
全員が振り向く。
アレスは静かに頷く。
「簡単に言うならな」
士郎は少し笑った。
「なら問題ない」
兵士たちの顔が引きつる。
この男。
本当に戦争を恐れていない。
◇
移動開始。
王国軍。
傭兵団。
混成部隊。
ヴァルガ砦へ向かう。
道中
兵士たちは不安を隠せなかった。
「本当に防げるのか……」
「ゼクトが来るんだぞ……」
「もう終わりだ……」
そんな中
士郎だけは静かだった。
むしろ
少し機嫌がいい。
リゼが呆れた顔で言う。
「なんで楽しそうなの……」
「強い奴がいる」
「それ戦争の感想じゃないからね?」
士郎は答えない。
視線は前。
戦場だけを見ていた。
◇
数時間後。
ヴァルガ砦。
巨大だった。
山岳地帯を利用した超大型防衛拠点。
高い城壁。
無数の砲台。
だが。
既に空気は絶望的だった。
兵士たちは疲弊しきっている。
傷兵だらけ。
食料も不足。
さらに。
砦の向こう側。
地平線を埋め尽くす魔族軍。
数万。
兵士たちの顔から血の気が引く。
「う、うそだろ……」
「数が多すぎる……」
その中央。
赤黒い鎧。
巨大な魔剣。
血刃のゼクト。
魔族軍が歓声を上げる。
人類側には絶望が広がる。
だが。
士郎だけは笑った。
「いるな」
ゼクトも士郎を見つける。
そして
獰猛に笑った。
◇
その夜。
ヴァルガ砦内部。
兵士たちは武器を握りながら震えていた。
明日。
総攻撃が始まる。
多分、大勢死ぬ。
逃げたい。
だが逃げ場はない。
リゼも眠れなかった。
士郎は砦外壁に座っている。
一人で。
リゼが隣へ来る。
「寝ないの?」
「ああ」
「……怖くないの?」
沈黙。
士郎は少し考える。
そして。
「死ぬかもしれない戦いは嫌いじゃない」
リゼの顔が曇る。
士郎は続ける。
「生きてる感じがする」
その言葉に
リゼは何も言えなかった。
士郎は静かに夜空を見る。
遠く。
魔族軍陣地。
そこから濃い殺気が流れてくる。
ゼクト。
そして。
それ以外にも。
強い気配が増えていた。
士郎の口元が歪む。
「明日は面白くなりそうだ」
リゼは、その横顔を見て思う。
この人はもう
普通の場所では生きられないのかもしれない、と。




